トランプ政権下で「多様性施策をやめる米企業」が続出……日本企業が取るべき対応は?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
米トランプ大統領の「性別は男と女だけ」という考え方に追随するかのように、これまで米国のグローバル企業が重視してきたDEI目標を撤廃、または縮小する動きが相次いでいる。日本企業はどのように対応すべきだろうか。
日本企業はどう立ち回るべき?
企業がこうしたリスクを回避し、社会的信用を維持するためには、まず自社の価値基準と目標を明確化することが不可欠である。
そもそもDEIに取り組む意義がどこにあるのか、企業としてどの程度までコミットするのかを社内外に示すことで、仮に外部の潮流が変化しても、方針に大幅なブレが生じにくくなる。
具体的には、採用や人事評価で一定の多様性目標を設定したり、経営陣が率先してDEI推進に関する具体的な指標を提示したりなど、形として分かりやすい施策を講じるとよい。
経済同友会などが掲げている多様性推進の呼びかけとも連動すれば、業界全体での共通認識を形成しやすくなるだろう。重要なのは、海外や投資家の動きに迎合するのではなく、自らの経営理念に基づいて「DEIのような考え方をどう位置付けるか」を明文化することである。
一方で、米国を発端として世界的にDEI施策撤廃の考え方が支配的になった場合は、全く無視して行動するわけにはいかない。
そこで求められるのが、短期的には世論や投資家の声に柔軟に対応しつつ、長期的には企業の独自ビジョンに基づいて独自のDEI的な考え方を位置付けるという二段構えのアプローチを用意する“したたかさ”ではないだろうか。
例えば、特定の人材層を優遇する施策の是非については、社会状況を踏まえて柔軟に検討しながらも、最終的に目指す多様性の水準は維持し続ける。
こうしたメリハリがある経営姿勢は、短期的な環境変化に対応する柔軟性と、長期的なビジョンへの一貫性を両立させる上で効果的である。
主体性のある判断を
米国で浮上しているDEI施策撤廃の動きはまだ一部に限られ、世界全体の潮流が一気に逆転したわけではない。それにもかかわらず、日本企業が仮に外圧や投資家要請のみを優先して大幅な方針転換を行えば「主体性の欠如」という批判にさらされるだろう。
紙ストローの導入と撤退のように、海外任せで取り組みを始めて、結局は海外の撤退に追随するという構図を繰り返しては、企業イメージが損なわれるリスクも大きい。
今後、政治的対立や社会情勢によってDEI施策に対する評価が揺れ動く可能性は高い。だからこそ、企業には自社の経営理念に根ざしたぶれない方針と、社会の声を柔軟に取り入れるバランス感覚が求められる。
日本企業がこの局面で主体性を発揮し、短期的な利益や外部環境の変化に左右されずに“多様性を尊重する企業文化”を醸成できるかどうかが重視されるだろう。経営者は外部圧力や仮説に振り回されることなく、自社の長期価値を見据えた考え方を継続・進化させていく責任があるといえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ルンバ“没落”──株価は20分の1に iRobotに残された唯一のチャンスは?
ロボット掃除機「ルンバ」は、当時の家電市場に革命をもたらした。開発・販売を手がけるiRobotは2021年に株価は史上最高値を更新したが、なんと現在の株価は約20分の1。同社とロボット掃除機市場に何が起きたのか。苦境の中、起死回生の一手はあるのか。
“時代の寵児”から転落──ワークマンとスノーピークは、なぜ今になって絶不調なのか
日経平均株価が史上最高値の更新を目前に控える中、ここ数年で注目を浴びた企業の不調が目立つようになっている。数年前は絶好調だったワークマンとスノーピークが、不調に転じてしまったのはなぜなのか。
孫正義氏の「人生の汚点」 WeWorkに100億ドル投資の「判断ミス」はなぜ起きたか
世界各地でシェアオフィスを提供するWeWork。ソフトバンクグループの孫正義氏は計100億ドルほどを投じたが、相次ぐ不祥事と無謀なビジネスモデルによって、同社の経営は風前のともしび状態だ。孫氏自身も「人生の汚点」と語る判断ミスはなぜ起きたのか。
農林中金が「外国債券を“今”損切りする」理由 1.5兆円の巨額赤字を抱えてまで、なぜ?
農林中央金庫は、2024年度中に含み損のある外国債券を約10兆円分、売却すると明らかにした。債券を満期まで保有すれば損失は回避できるのに、なぜ今売却するのか。
ブックオフ、まさかの「V字回復」 本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ?
ブックオフは2000年代前半は積極出店によって大きな成長が続いたものの、10年代に入って以降はメルカリなどオンラインでのリユース事業が成長した影響を受け、業績は停滞していました。しかしながら、10年代の後半から、業績は再び成長を見せ始めています。古書を含む本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ再成長しているのでしょうか。
