フジ新社長はアニメ畑出身 「異色だが期待大」な、決定的な理由:動画配信市場は「10年で10倍」(1/2 ページ)
フジテレビジョンの清水賢治新社長は『ドラゴンボール』『ちびまる子ちゃん』『ONE PIECE』など国民的なメガヒットアニメを企画・プロデュースしてきた。これまでフジテレビの社長とどう違うのか? アニメ業界のビジネスモデルからひも解いてみたい。
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フジ・メディア・ホールディングス(FMH)は1月27日、10時間23分に及ぶ異例の「やり直し」会見を開いた。フジテレビジョンの港浩一社長、嘉納修治会長は辞任。後任社長にはFMH専務の清水賢治氏が就任した。
清水氏は、1983年に入社。『Dr.スランプ アラレちゃん』『ドラゴンボール』『ドラゴンクエスト』『ちびまる子ちゃん』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』『HUNTER×HUNTER』『ONE PIECE』など国民的なメガヒットアニメを企画・プロデュースしてきた。
これまでフジテレビの社長は、ディレクターなど制作現場出身者や経営企画系出身、新聞社や省庁出身者の外部登用など、さまざまな経歴の人物が就任してきた。清水新社長は同社を代表するアニメプロデューサーであり、その経歴は他のキー局の歴代社長を見てもあまり例がない。
同じプロデューサーという職務でも、テレビ局が制作にも積極的に携わるバラエティーやドラマと、制作を外部に全面委託し、さまざまな業界が出資するアニメとでは、実はその役割が違う。アニメプロデューサー出身の清水新社長就任で、今後のフジテレビの経営はどう変わるのだろうか。これまでの社長との比較と、アニメ業界のビジネスモデルからひも解いてみたい。
調整能力が問われるアニメプロデューサー 港前社長との“決定的な違い”は?
午後4時から始まった会見にはまず、フジテレビの港社長、嘉納会長、遠藤龍之介副会長、FMHの金光修社長の4氏が登壇した。会見直後に一連の問題への対応の責任をとる形で、港社長と嘉納会長の辞任を27日付けで発表。後任社長にFMH専務の清水賢治氏が就いた。
その後、この5氏によって、10時間超の会見を続けることに。会見には191媒体、437人が参加。筆者も最初から最後まで参加した。途中、フリーランスの記者を中心に、怒号が飛び交う展開もあったのは周知の通りだ。
1月27日の会見に臨む経営陣。左からフジ・メディア・ホールディングス清水賢治専務、フジテレビ遠藤龍之介副会長、港浩一社長、フジ・メディア・ホールディングス嘉納修治会長、金光修社長(肩書きは当時。撮影:河嶌太郎)
会見で清水新社長は左端の席に座り、10時間超も終始丁寧な語調で対応した。対する港前社長は「○○かな」や「なので」など、ところどころカジュアルな話し方が目立ち、XなどのSNS上でも、その話し方の拙さを指摘する声もある。港前社長は『FNS27時間テレビ』『とんねるずのみなさんのおかげです』などのバラエティー番組を多く手掛けてきており、「制作現場たたき上げだから仕方がない」という見方もあった。
特にバラエティーをはじめ、ドラマなどの実写コンテンツは、テレビ局自ら制作に携わる場合が少なくない。全番組がそこで収録されるわけではないものの、キー局ではスタジオも本社内にある。そこでプロデューサー以下のスタッフが番組制作に立ち会い、芸能人とリアルタイムで接しながら、番組作りを進めていく。
今ではコスト削減意識の高まりから、バラエティーやドラマの制作を外部に委託する形も珍しくなくなっている。だが港前社長が現場で活躍した1980年代から1990年代のテレビ黄金期は、今よりも自社制作の番組が多かった。
バラエティーの収録では、放送作家を中心に番組の構成を立てるものの、あくまでそれはたたき台であることが多く、芸人のアドリブや、収録に立ち会うディレクターやプロデューサーなどのアイデアなどによって最終的な演出は変わってくる。港前社長は第二制作部部長やバラエティ制作センター室長、バラエティ制作センター担当局長などを歴任しており、まさに番組作りたたき上げの「職人」といえるキャリアだ。
一流の職人が「大企業の社長」として適格だったかどうかには、議論の余地が大いにあるだろう。だが、あらためて港前社長のキャリアを考慮すると「本当に経営層のビジネスパーソンだったのか」と問われてしまうような言葉遣いが目立ったのも、ある程度は仕方がない面もあると考えられる。
テレビ局が「手を出せない」アニメ制作
一方で後任の清水新社長が主に歩んできたアニメの場合、バラエティーとは決定的な違いがある。アニメはテレビ局が制作できない点だ。
テレビ局の子会社となっているアニメ制作会社自体は、例えば日本テレビ子会社のスタジオジブリやタツノコプロなどが著名だ。フジテレビも、デイヴィッドプロダクションというアニメ制作会社を子会社にしている。
だが、アニメ制作会社がテレビ局と資本関係にあったとしても、アニメプロデューサーは番組作りに対して、バラエティーのようには大きく口を出すことができない。アニメプロデューサーはテレビ局の一人だけでなく、アニメ制作会社にもいて、著名な例でいうと、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが当てはまるだろう。
アニメ作りにおいては、テレビ局などの「製作」プロデューサーと、制作会社の「制作」プロデューサーは、明確に区別されている。口頭で伝える際にも「衣」付きなどと表現されるほどだ。
実際のアニメ作りの現場は、この制作会社の制作プロデューサーが取り仕切る。アニメ作りにおいては、テレビ局は基本的にアイデアとお金を出すことが主で、バラエティーなどのように、番組作りに直接「手」を出すことはできない。
「口」は出せるものの、出せるのは基本的に「プリプロダクション」と呼ばれる、企画立案からシリーズ構成、脚本、設定・デザイン、絵コンテまでの段階でだ。絵コンテが完成し、それを元に制作会社が中心となって原画やアニメーターなどが動き出す段階になってしまうと、現場の陣頭指揮は制作プロデューサーが担い、製作プロデューサーは基本的に進捗確認や品質管理などにしか携われない。
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