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ドンキ「みんなの75点より、誰かの120点」が、マーケティング戦略的に正しいワケ(4/4 ページ)

一見するとリスクの高い挑戦が、成功したのはなぜか。

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ニッチ戦略で成功するためのポイント

 ニッチ戦略とは、大手が参入しない領域を狙い、その狭い市場でリーダーになることである。しかし「狭い市場=限られた売り上げ」と安直に決めつけるのは早計である。

 たとえ対象顧客のボリュームは小さくても、その一人一人の客単価やリピート率を高められれば、十分に高収益を見込めるからだ。

 “少数の顧客を圧倒的に満足させる”というアプローチは、「パレートの法則(80/20の法則)」とも通じる。大抵のビジネスでは利益の8割を2割の顧客がもたらしている。であれば、その2割をもっと“熱狂的なファン”に育成すべくリソースを集中投下することが、ビジネスとしても合理的である。

 一方で、“とがった個性”を打ち出すには、必然的に“アンチ”も生む覚悟が求められる。多くの企業は大衆に嫌われるリスクを回避しようと、無難なラインを選びがちだ。しかし、それでは際立った個性が育ちにくい。ニッチ戦略で成功を収めるには、“万人に60〜70点”を狙うのではなく、“特定の誰かに120点”を狙うことが不可欠なのである。

“顧客との共創”の重要性

 偏愛めしのサイトには「商品を変えるのはあなた! お客さまからのご意見をいただく場も定期開催し、ドンドン進化!」とうたっている。これは単に“マニアックな商品をそろえるだけ”ではなく、顧客とともにブランドを作っていこうという姿勢の表れだ。

 顧客とのインタラクティブな回路を作り、顧客の声に真摯(しんし)に耳を傾け、それを迅速に商品開発や改善に反映する。そうした取り組みの蓄積が、“自分ごと化”を促し、結果的に超ロイヤル客を生み出すことにつながる。これがニッチ戦略を成功に導くもう一つの鍵である。

 ニッチな市場を狙う企業であれば、余計に“狭く深い”顧客接点が欠かせない。その意味で、偏愛めしの「顧客参加型」スタンスは極めて理にかなっている。外食店などでも「限定メニューの企画をSNSで募る」「来店客からの声を店づくりに反映する」などの取り組みは徐々に広がっているが、ドンキの「偏愛めし」はその一歩先を行くユニークな事例といえる。

「誰かの120点」を目指す勇気

 ニッチ戦略には、「収益規模が小さいのではないか」という不安や、「一部の顧客にしか刺さらず、拡大できないのでは」というリスクがつきまとう。しかし、ターゲットを広げようとするあまり個性が薄れてしまえば、大手の量産型商品と差別化できずに埋没してしまうリスクも高まる。言い換えれば、ニッチであるがゆえに大手からの“同質化攻撃”を避けられるメリットもあるのだ。

 また、誰もが知っている当たり障りのない選択肢ではなく、“誰かにとっての120点”を狙う勇気こそが、ドンキの「偏愛めし」をはじめとするニッチ戦略成功企業に共通する真髄(しんずい)なのである。

金森努(かなもり・つとむ)

有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師

金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。

2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。大学でマーケティングを学び、コールセンターに入社。数万件の「本当の顧客の生の声」に触れ、「この人はナゼこんなコトを聞いてくるんだろう」と消費者行動に興味を覚え、深くマーケティングに踏み込む。(日本消費者行動研究学会学術会員)。

コンサルティング会社・広告会社(電通ワンダーマン)を経て、2005年に独立。30年以上、マーケティングの“現場”で活動している「マーケティング職人」。マーケティングコンサルタントとして、B to B・Cを問わず、IT・通信、自動車・電機・食品・家庭用品メーカー、金融会社、生損保、自動車販売、EC等、幅広い業種に対応し、新規事業・新商品開発・販売計画・販売のテコ入れ案・コミュニケーションプランの策定等、幅広くマーケティング業務の支援を行っている。講師としても業種を問わず、年間100コマ以上の企業研修に登壇。コンサルティング経験を元に企業課題に合わせた研修のオリジナルのコンテンツやカリキュラムを提供。研修によってマーケティングを「知っている」だけではなく、「業務に生かせるようになること」にこだわっている。執筆は、「初めてでもマーケティングが楽しく体系的に学べる本」をテーマに10数冊刊行。「3訂版 図解よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)など。


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