「IT多重下請け」の構造と解決策 やりがい搾取と「報酬中抜き」はなくなるか?(1/2 ページ)
ITエンジニアやアニメ制作者らが抱えている「多重下請け構造」。この課題が社会問題となって久しい。発注者と受注者という立場の差が生み出した事象だ。TECH PLAY Company代表に多重下請け構造の課題を聞いた。
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ITエンジニアやアニメ制作者らが抱えている「多重下請け構造」。この課題が社会問題となって久しい。発注者と受注者という立場の差が生み出した事象だ。「やりがい搾取」という言葉も広まっている。
パーソルグループのパーソルイノベーション傘下のTECH PLAY Companyは、IT・DXの人材育成支援サービスを展開。27万人のIT人材と、500社のテック企業に利用されている。TECH PLAY Companyの片岡秀夫代表に多重下請け構造の課題を聞いた。
片岡秀夫(かたおかひでお) TECH PLAY Company代表。2008年にパーソルキャリア(当時インテリジェンス)新卒入社。経営企画部、転職支援事業の事業企画部を経てInnovation Lab.にて新規事業開発および、オープンイノベーションを推進。分社化と同時にパーソルイノベーション社内で「TECH PLAY」の事業責任者として、各社のDX実現のためにDXコンサルティング・組織作り・人材育成を支援
なぜ「IT多重下請け」が生まれるのか?
同社のサービス「TECH PLAY」はもともと社員起案から始まった。特にIT系の人材において、競合よりも強みを有していたことがヒントだったという。DeNAやLINEなどゲームやWeb業界が盛り上がっていた2010年ごろ、人材獲得競争が激しい市場になっていた。
片岡代表は「人材ビジネスでは、エージェントが平均で35%の料率を設定しています。例えば当時のゲーム業界では本当に欲しい人材に対しては、年収の100%の料率を支払うような状況でした。つまり年収600万円でエンジニアを採用する場合、企業側は、採用手数料を含めると総額で1200万円が必要になる状況だったのです」
最初は「優秀なソフトウェアエンジニアは、そもそもどこで何をしているのか?」というところから調べ始めた。そして彼らがITに関する勉強会やイベントに積極的に参加している実態を知る。「勉強会やイベントを通じて学ぶことを支援するサービスを作ろうということになりました。それが2013年10月にサービスを開始した『dots.』です」
2017年に現在のTECH PLAYに名称を変え、現在に至る。現在の事業はB2BとB2Cに分かれ、前者はTECH COMPANY化に向けて戦略、育成、採用を支援。後者はTECH PLAYのWebサイトを通じて、技術情報やキャリア情報を支援しているという。年間で600回以上のITイベントを、企画立案もしている(2024年9月時点)。
現在、自動車業界は、自動運転車の開発の需要などからIT人材を必要としている。例えば、トヨタ自動車はTECH PLAYのWebサイトに求人を出して採用活動をするほど、ITに特化して求人を募集している。片岡代表は「ソフトウェアエンジニアを採用するほどITに注力し、新しいプロダクトや事業を作りたいと思う企業を増やしたい。そういう機会を作りたいのです」と話す。
「SIerに外注したほうが楽」という現状
以前、PE-BANK社長をインタビューした記事でも紹介した通り、フリーランスのITエンジニアは増えてきている。片岡代表は「全体としては依然として『企業対企業』という構図が多い印象です。企業で働くという安心感や終身雇用の影響が、まだ残っている面があるからです」と実態を話す。
多重下請け構造を理解するには、歴史や背景を知る必要がある。日本人は「手作り/クラフトマンシップ」「ひと手間」など、人間が魂を込めてモノを作り出すことに価値を置いてきた。「日本は1980〜1990年ぐらいのタイミングで、クラフトマンシップのような文化の中で(いろいろな商品の)内製化をさらに進めようとしてきました」
その後、想定とは違う方向にそれていく。例えば、新入社員にプログラミング言語の「C#」を学ばせた。年月が過ぎ、新たに開発する新商品には「Java」が必要となった。あらためて別なプログラミング言語のリスキリングをさせるのは(時間やコストの面などから)面倒ということで、会社はシステムインテグレーター(SIer)に外注する流れが生まれたのだ。
「効率化の話なのでいい面はあるのですが、面倒という理由だけでアウトソースすることが果たして正しい判断なのか……。企業としてのデジタルリテラシーの問題ですが、今は、それすらもなくなってしまった印象です」
つまりSIerを使って効率ばかりを追い求めた結果、多重下請け構造が生まれる土壌ができあがったのだ。「開発したい商品に応じて外部に発注する時点で、一次請けが生まれます。一次請け企業であるSIerはプロデューサー的な役割です。では、実際に誰がシステムを作るのかといえば二次請けの会社です。二次請けで人が足りなければ、三次請けが生まれるという状況になるのです」
片岡代表によると、プロジェクトにもよるものの大規模なプロジェクトだと、一次・二次までではなく、三次・四次まであるケースもあるそうだ。
コロナ以後、働き方も変化した。多重下請け構造も変わっていかないのだろうか。
「日本はピラミッド構造なので、上が変わらないと下は変わらないと思います。一次請けの会社から二次請け、三次請けに継続的に発注が来るのであれば、下請け企業が変わる理由はあまりないからです」
やりがい搾取に代表される金銭面については、下層になればなるほどブラックボックス化して、いくら中抜きされているのか分からないのが実情だ。
「もし私が発注元ならば、二次請け以下については、いくらマージンを払っているのかは分かりません。正直なところ、ガバナンスは効かないと思っています。原理原則として、誰がどの工程を作業し、何を作ったのかを正確に記録するような、ガバナンスとマネジメントが効く仕組みを作る必要があります」
日本では、発注元が上の立場を利用して、コスト削減や、現場に口を出し「あれもやってくれ、これもやってくれ」とリクエストする企業が少なくないという。ちなみに海外には、あまり多重下請けの例はないそうだ。
片岡代表は目的・目標を明確にする解決方法として「OKR」(目標と主要な結果。Objectives and Key Results)というマネジメントの推進を推奨する。
「『私たちは何を作るのか?』に重きを置いたマネジメントを、委託先と一緒にできるようになればいいと考えます。それには、発注側の意識改善が必要になります」
発注元が「下請けと一緒にいいモノを作っていくんだ」という意識を持つことと、立場が上という意識を変えることが重要だと強調した。
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