「昔ながらの名車風」なぜ人気? 自動車メーカーが“過去の遺産”を利用する理由:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したホンダのフリードのように、近年はクルマのデザインの優先度が高くなった。昔からクルマのスタイリングは重要な要素だったが、機能性で差別化しづらくなった今こそ、さらにデザイン性が問われる時代になっている。
今こそデザイン性が問われる時代に
良いデザインには人を引き付ける力があり、それは燃費や維持費といったコストに匹敵する魅力になることも珍しくない。
結局、クルマのような耐久消費財は価格や維持費も重要だが、最終的に所有欲や満足感を満たすのは、他のクルマでは得られない要素、つまりデザインやブランド、乗り味といったものなのだ。
現代のクルマたちは燃費性能という点では十分に高く、わずかな燃費性能の違いでは差別化できなくなってきている。
筆者は東京モーターショーやジャパンモビリティショーでガイドの役目も務めており、自動車メーカーのコンセプトカーなどでEVが増えてきた頃から「EVが普及すると、燃費を気にする必要がなくなるので、デザイン性にあふれたクルマが選べるようになりますよ」と、コンセプトカーの自由なデザインが決して夢物語になるとは限らないことを解説してきた。
ガソリン価格は上昇する一方であるし、EVの普及はまだまだ先のことになりそうだが、これだけエンジン車やハイブリッド車の完成度が高まり、燃費性能の差が少なくなってくると、決め手は燃費ではなく安全性や快適性になり、快適性とは乗り心地や機能だけでなく、デザイン性も含まれると感じているユーザーは多い。
クルマを使わねば生活が成り立たない、クルマがあると生活が充実するなど、人によってクルマを使う理由はさまざまであるが、大金を払って購入し、税金や保険、ガソリン代などを払うのであれば、自分にとって本当に必要なクルマを手に入れて乗り回したいと思うものだ。
すなわちEVだろうとハイブリッドだろうと、消費者に「このクルマに乗りたい!」と思わせることが重要なのではないだろうか。消去法で選ばれるようなクルマばかりを生み出していては、これから先、中国製や韓国製のクルマに取って代わられるのが避けられなくなる。
海外メーカーだって一生懸命売れるクルマを模索し、作り出しているのである。日本の自動車メーカーは技術力や品質はトップレベルだが、アイデアや新しい価値を見いだすのはやや苦手な傾向があるように見える。
この先求められるのは、ユニークなクルマとなりそうである。自動運転車を見据える今、世界中の自動車メーカーが模索しているのが現状といえそうだ。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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