孫正義氏、OpenAIと「AIエージェント」の覇権狙う キーワードは「独占販売」
ソフトバンクグループとOpenAIのAIエージェントを巡る今回のパートナーシップ。キーワードは「独占販売」だ。
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ソフトバンクグループ(SBG)は2日3日、米OpenAIとの新会社「SB OpenAI Japan」を設立すると発表した。都内で開催した法人向けイベントでSBGの孫正義会長兼社長は、個々の企業の全てのシステム、データを安全に統合し、企業専用にカスタマイズしたAI「クリスタル・インテリジェンス」(以下クリスタル)も発表。「日本の大企業からAGI(汎用人工知能)が始まる。世界で初めて日本から始める。われわれが始める」と訴えた。
筆者の見る限り、AIエージェント機能を持つクリスタルを巡るパートナーシップのキーワードは「独占販売」だ。
孫氏とアルトマンCEOが見据える「産業変革のビジョン」とは?
孫氏によると、会場には「日本のGDP(国内総生産)の50%を占める企業500社」が集まったという。確かに会場では、日本を代表するIT企業などの経営層と何度かすれ違った。孫氏やソフトバンクの宮川潤一社長兼CEOだけでなく、OpenAIのサム・アルトマンCEO、英半導体設計大手Armのレネ・ハースCEOといった世界的な“大物”が登壇。イベントには熱気を感じた。
そこで発表されたのがクリスタルの概要と、SB OpenAI Japanの設立だ。今回の発表の背景には、1月に米国のドナルド・トランプ大統領と発表したSBG、OpenAI、米Oracleの共同事業「Stargate」(スターゲート)がある(関連記事)。同事業では、AIインフラ構築のために最大5000億ドル(約78兆円)規模の投資をするとした。
今回はクリスタルを日本企業に“独占販売”することで、日本でのAIインフラ構築の覇権を握る狙いがある。より具体的に言えば、ユーザーの指示したタスクを自律して実行できるAIエージェントの普及だ。SBGは、全グループ各社にOpenAIのソリューションを展開するために、年間30億ドル(約4500億円相当)を支払う。世界で初めてクリスタルを大規模に導入するとともに、ChatGPT Enterpriseなどの既存ツールも全グループの従業員に展開するという。
OpenAIの技術力をもって、日本企業向けにカスタマイズしたクリスタルを展開し、市場を開拓していく。日本の主要企業に対して、クリスタルを独占販売するのが合弁会社のSB OpenAI Japanだ。会場には500社が集まっているといいながら、孫氏によれば「最初は1業種1社程度から始めていく」という。
OpenAIは2024年、論理的推論が可能なAIモデル「o1」シリーズを公開した。このAIモデルは2025年、AIエージェントに進化するという。AIエージェントは、財務関連の資料作成や文書の作成、顧客の問い合わせ管理などのタスクを自動化する。ユーザーは戦略的な意思決定など、他の業務に時間を費せるようになるという。クリスタルにより、AIエージェントは、企業のニーズに適応する高度なシステム基盤を構築していく。
孫氏はクリスタルをグループ全体に導入することによって、AIエージェントの普及を加速させる構えだ。OpenAIとの契約により、Armを含むSBGのグループ企業は、OpenAIが開発する最先端のモデルを日本国内で優先的に利用できるという。孫氏はクリスタルによって、日本のあらゆる産業に変革を起こしていく考えだ。
OpenAIは技術で支援 ソフトバンクは営業を展開
企業がAIを最大限に活用するには、データの追加学習やファインチューニングを行うことが必要不可欠だ。SB OpenAI Japanは、データの追加学習やファインチューニングを行う環境を構築する。孫氏はStargateの延長として、日本国内に推論向けのデータセンターを設置する構想も明らかにした。日本の導入企業が、安全な環境で社内のデータを学習させ、自社のシステムと連携したAIエージェントを構築できるようにするためだ。AIエージェント機能によって、企業はあらゆるタスクを自動化・自律化できるという。
OpenAIは、SB OpenAI Japanに対して最先端のAI研究と技術面でサポートする。一方のソフトバンクは、エンジニアと営業を担う社員を配置し、国内のネットワーク、保守運用、強固な法人顧客基盤を生かして、営業を展開する。孫氏は「営業とエンジニア、導入のためのシステムインテグレーションを行う1000人体制の専任部隊を作る」と意気込む。
Armは、AIエージェントにより増大する計算需要に対応するため、その(ソフトウェアの実装が行われるデータ環境である)コンピュートプラットフォームを通して、クラウドからエッジまで、必要なパフォーマンスを提供していく。日本での取り組みを通じて、世界規模でAI変革を実現するための基盤モデルを創出するという。アルトマンCEOは「ソフトバンクとのパートナーシップは、われわれのビジョンの実現を加速させ、日本を皮切りに、世界で最も影響力のある企業に革新的なAIを提供していく」と述べた。
イベントではOpenAIのメンバーが、ChatGPTの新機能「Deep Research」のデモを披露した。インターネット上のテキストや画像などを検索して分析する機能で、アルトマンCEOによれば「これまで30日かかっていた調査が数分でできる」という。Deep Researchのデモだけでは、今後のクリスタルの威力を計るのは難しかったものの、孫氏はこれまでYahoo!やiPhoneなど世界最先端のテクノロジーを、日本市場に広く行きわたらせてきた。今後、AIエージェントをどこまで日本の大企業に取り入れさせられるか。孫氏の手腕に注目だ。
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