企業と働き手、フジテレビ問題から見える「パワーバランス」の変化とは?:働き方の見取り図(3/3 ページ)
企業は、いついかなる場合でも組織は個人より強い立場にいるという幻想を捨て去る必要がある。職場の立場はまだまだ働き手よりも強いとはいえ、パワーバランスの偏りは徐々に修正される方向へと向かっている。
崩れつつある「組織と個人」のパワーバランス
もし自分に合う労働組合がうまく見つけられない場合、働き手が職場での意に反した不合理な出来事から自分の身を守るためには交渉力を磨く必要があります。労働周りの法知識や論理立てて意思を伝える話術、組織が相手でも臆さない度胸など必要な要素は色々ですが、中でも鍵になるのは発信力です。
損保会社や自動車メーカーなど、大きな組織の中で人知れず行われてきた不正が明るみに出たり、フジテレビの企業文化に問題があるのではないかと表立って指摘されるようになったのは、かつては内々に秘められてきた情報が、内部事情を知る個人からの公益通報やリークといった形でオープンにされるようになったことが大きな要因の一つです。
インターネットとスマートフォンが浸透したことによって、いつどこでも誰とでもやりとりできるようになりました。組織は個人による情報発信を制御しきれなくなり、ガバナンスの難易度は著しく上がってきています。個人からすると、意に反した不合理な出来事に遭遇した時、その経緯を記録し、客観的な証拠とともに世の中に発信することで、誰もが組織を崩壊させるほどの蟻の一穴を開けられるようになりました。
職場と交渉する上で個人に発信力という大きな武器が備わった現代は、社会のパワーバランスをも変えつつあります。発信には責任が伴うことを重々認識した上で適切に発信力を行使すれば、働き手は職場相手でも交渉力を大きく高められ、自分の身を自分で守る最大の盾とすることができます。
一方で職場側は、いついかなる場合でも組織は個人より強い立場にいるという幻想を捨て去る必要があります。職場の立場はまだまだ働き手よりも強いとはいえ、パワーバランスの偏りは徐々に修正される方向へと向かっています。
その変化は、ストロングマネジメントで働き手の意志を押さえつけ縛りつける職場より、働き手の意志を尊重し、働き手から選ばれる職場が勝つ時代へと誘うことになるのではないでしょうか。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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