あなたがプーチンだったら、どうするか? ビジネスに役立つ“地政学”の思考法
地政学とは「その国の元首になる“ロールプレイングゲーム”」である。そして、「その国のトップの考え」に影響を与える要素に「地理」とその他「6つの要素」がある。
この記事は、田村耕太郎氏の著書『地政学が最強の教養である』(SBクリエイティブ、2023年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などはすべて出版当時のものです。
地政学とは「その国の元首になる“ロールプレイングゲーム”」である。そして、「その国のトップの考え」に影響を与える要素に「地理」とその他「6つの要素」がある。つまり、「『地理』と『6つの要素』にその国の条件を入れ込むことで、『その国のトップの考え』が決まる思考の枠組み」が「地政学の思考法」だ。そうして、「自分がその国のトップだったら、どう考えるか」思いを巡らせる。
では、「その国の元首になる“ロールプレイングゲーム”」とは具体的にどんなことなのだろうか。今何かと地政学リスクについて話題を提供してくれているロシアを例に考えてみたい。
もしも、あなたがプーチンだったら?
前回記事で、「なぜロシアは大きな国土があるのに、他国を攻めるのか?」という疑問について簡単に説明した(リーダーが「地政学」を学ぶべき4つの理由──リスクヘッジのために必要な“視座”とは)。ここでもう少し深掘りをしてみよう。あなたもプーチンになってみる。あなたが、クレムリンの執務室にどっかりと座っていたらどういう世界が見えるだろうか?
ロシアは世界一の国土の広さで、その面積は約1710万平方キロメートル、日本の約45倍である。東西に大きくまたがるため11ものタイムゾーンがあり、同じ国内でも時差は最大10時間にわたる。
そんな広大な国土を治める立場にいるのだ。その広大な国土に190を超える少数民族を抱えているのだ。
あなたは大豪邸に住んでいる。その中には自分たちとは慣習や言葉も違う人たちが多く住んでいる。それよりある意味異質な人たちと、その広大な豪邸の敷地の境を接しながら窓やドアは増えているのだ。家が大きければ大きいほど、増えた窓やドアから強盗や泥棒に侵入される可能性は高くなる。プーチン氏は、陸続きの国境線が延びれば延びるほど侵入される恐怖は増すのだ。
地理が決まれば気候も決まる。ロシアの国土の約60%は永久凍土である。そしてその国土の80%は無人であるといわれる。国土が広く見えて、「なぜあんな広い国に住みながらまだ領を拡大しようとするのか」と思う人もいるだろうが、80%が無人で住めない場所だとしたらどうだろう。
そして、地理が決まれば、必然的に「周辺国」が決まる。実は、ロシアは国境を隣接する国が14もある。ただでさえ、家が広くて侵入者に「恐怖」を感じているのに、侵入可能な窓やドアが増えたら、あなたならどう思うだろうか。「恐怖」はさらに強まり、もうこうなると、「攻められる前に、こちらから攻める」というマインドになりかねない。
ロシアという国は永久凍土など、居住や移動に適さない土地が多い。そのせいもあり、農業の生産性は低い。ロシアの耕地面積は1億2200万ヘクタールで、日本の28倍もあるが、穀物の単位面積当たり収穫高は1ヘクタール当たり2.4トンで日本の4割ほどしかない。
そして、交易や海洋進出のために活用したい港湾の多くが、冬場に凍結してしまう。
こうして、「地理」が決まることで、間接的に「歴史」も決まる。「攻められる前に、こちらから攻める」というマインドと、生きていくために「不凍港」を求める動きが合わさる。あなたなら、どうするか。そう、だからこそ、ロシアは常に国外に進出を繰り返してきた。もちろん、私はだからといってロシアの過去や現在の行動を正当化はしない。しかしながら、価値判断を除いてロールプレイング思考訓練だけやる。その上で自分ならどうするか? オプションを導き出すことがとても大事なのだ。
自らをクレムリンの執務室に置いて、価値判断はせずに、自分がプーチンならどうするかを考えてみることに意義はある。もちろん、違うオプションを導き出すことを試みるなど、相手の立場に立つことはとても重要である。この訓練はビジネスに役立つだけでなく、実際の和平交渉やその進展を読むことにおいても有意義だ。
地政学は「戦争」でなく「平和」 のための学問
どうだろう。このように「要素」で考えていくと、例えば「ロシアがウクライナに侵攻した」というニュース一つをとってみても、その受け取り方が結構変わってくるのではなかろうか?
持続する現実的な平和を確立するためには地政学的理解が欠かせないのだ。世界はジャングルのおきてが支配する。フランシス・フクヤマ氏が『歴史の終わり』で説いたような世界はやってこなかった。世界に自由民主主義が自然と広がり、国際機関や国際社会が国際法を使って平和を保障してくれるような世界はまだまだやってこないだろう。
現実的には平和とは力の均衡状態のことを言う。今回のウクライナ戦争は、プーチン氏がウクライナにおけるNATOとロシアの均衡状態が崩れたと判断して起こした。むき出しの力を使って状況を変えようとするリーダーの置かれた立場を理解して手を打たなければ、現実的で持続する平和はやってこない。
そのために地政学的理解、つまりロールプレイング的思考訓練が必要なのだ。善悪でリーダーを判断して勧善懲悪を期待してはいけない。NATO側にもアメリカにも、国益・名誉・恐怖から来る地政学的判断がある。そこも理解してわれわれ日本人は世論やビジネスの構築を目指すべきだろう。ウクライナ戦争に勝るとも劣らないような地政学的リスクが、われわれが住む日本近辺にもないわけではないのである。
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