怒っている人は「困っている人」 個人ができる対処法
組織レベルの対策に加え、島田氏は従業員個人のレベルでも対応力を高める方法を説明する。
まず、カスハラする顧客は、大きく4つのタイプに分けられるという。「(1)『歪(ゆが)んだ正義感型』は極端に物事を善悪で判断し、(2)『プライド型』は上下関係やメンツを重視します。(3)『被害者意識型』、(4)『自己主張型』など、それぞれのタイプの特徴を知ることで、自分自身の心を守りながらも適した顧客対応が取れるようになります」
他にも、顧客がカスハラをする理由に焦点を当てることで、従業員ができる心構えがある、と島田氏は話す。怒りの裏にある「困り感」に注目することの大切さを強調した。
「怒っている人は、『困っている人』なのです。何か大事なものが脅かされて困っている時に、人は怒りを感じます。時間や公平さ、価値観、プライドなど、さまざまな要素が関わっています。だから『何にお困りですか』という姿勢で臨むことが重要です」
さらにできる心構えとして、顧客との心理的距離の取り方も紹介した。
「対人関係療法では、人間関係を層で整理する『対人マッピング』という考え方があります。中心に自分がいて、隣り合わせの第1層には家族や親友など最も近しい人、第2層には友人や親戚、第3層には職場の同僚やママ友などが位置します。顧客はと言うと、第3層よりもさらに外にいる存在で、本来なら心を乱されるような相手ではありません。しかし、心の優しい人ほど顧客を内側の層に近づけてしまい、それがメンタル不調の原因になることがあります。適切な心理的距離を保つことが、自分自身を守るためにも非常に重要なんです」
島田氏は、カスハラ対策の本質として、コントロールできることとできないことを区別する重要性を強調した。
「雨や雪といった天気と同じで、カスハラ客の出現をゼロにすることはできません。大切なのは、自分がコントロールできることは何かを見極め、そこに力を注ぐことです。できないことは手放し、できることに集中する。これがストレスマネジメントの基本です」
カスハラは従業員の健康と組織の生産性、さらには社会全体に大きな影響を与える問題だ。島田氏は、組織と個人の両方の視点からバランスよく対策を講じることの重要性を訴える。
「カスハラは従業員の働きがいと健康を損ね、組織の顧客体験や生産性、最終的には存続自体を脅かします。組織資源と個人資源を増やす取り組みをバランスよく進めることで、より安心して生き生きと働ける環境を作ることができるのです」
2025年4月からの義務化を前に、各組織では今からガイドラインの整備や従業員のスキルアップ支援を進めることが求められる。島田氏の研究成果と実践知は、その具体的な道筋を示す貴重な指針となるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
生成AIは、1日2500件の対応に追われるJR西「お客様センター」をどう変えた?
R西日本のお客様センターが、生成AI活用を強化している。このお客様センターを運営するJR西日本カスタマーリレーションズはこれまでも、東京大学松尾研究室発のAIベンチャーのELYZAと協業して生成AI起点で業務フローを見直し、オペレーターの業務効率化に取り組んできた。JR西日本のお客様センターでは、生成AI活用によって業務の効率化にとどまらず、VoC活用の可能性も広げているという。
年6.6万時間削減 ジャパネット「コールセンター大改造」で得た数々のメリットとは?
年間18万件の「問い合わせ」を削減 ジャパネットとメーカーの切れない関係
「それ効果あるの?」と言わせない! 三田製麺マーケターの“社内を納得させる”施策効果の可視化術
「SNSのフォロワー数は増えているのに、売り上げへの貢献が見えない」「オンライン施策と店舗集客の関係性が分からない」――。多くの広報・マーケティング担当者が、一度は直撃したことがある課題だろう。そんな中、つけ麺チェーン「三田製麺所」を運営するエムピーキッチンホールディングスは、SNSやWebを活用した認知拡大から、コアファンの育成、そして売り上げ貢献までを可視化する独自のロジックを確立した。
高速PDCAで荷物返却も「爆速」 スカイマークの顧客満足度がANA、JALよりも高い納得の理由
ANAとJALに続き国内航空会社で3位のスカイマークだが、顧客満足度ランキングでは2社を上回り、1位を獲得している。特に利用者から評判なのが、受託手荷物の返却スピードだ。SNSでも「着いた瞬間に荷物を回収できた」「人より先に荷物が出てきている」といった声が多い。