主任になったのに「手取りが減った」 “名ばかり管理職”に甘えるズルい企業の問題点(2/2 ページ)
管理職に昇進したのに「給料がほとんど変わらない」「平社員の時より手取り額が減った」との話をよく聞きます。仕事量と責任は増え、残業もしているにもかかわらず上記の現象が起きているのはどうしてでしょうか。
なぜ管理職になっても手取りは増えないのか “名ばかり管理職”に甘えるズルい企業
一般社員が残業や休日出勤をした場合には残業代が支払われますが、管理職になると、残業や休日出勤をしても給料に反映されない場合が多いです。管理職の基本給が上がったり役職手当が支給されても、その金額以上に残業をした場合、残業代の支払いがないと手取りが増えない、あるいは減ってしまうことがあります。特に、一般社員から現場管理職(主任)に昇進したAさんのような場合にこのような傾向が見受けられます。
会社内では「課長」「部長」などの肩書があると管理職になります。しかし労働基準法上では管理職のことを管理監督者といい、解釈に違いがあります。
労働基準法の管理監督者とは、次の3つに該当し、実態により判断されます。
(1)自分が管轄する部署内では、職務内容や責任、権限が経営者と一体の立場にあること
(2)労働時間や業務量を自己裁量で調整できること
(3)地位にふさわしい賃金面などの待遇がなされていること
管理監督者として認められた場合に、はじめて次の処遇をすることが可能になります。
(ア)深夜労働を除く時間外、休日労働に対して残業代の支払いが発生しない
(イ)労働時間や残業時間の上限を設けなくてもよい(管理監督者の健康管理のため労働時間の把握は必要)
(ウ)6時間超労働した場合でも休憩時間を設ける必要がない
(エ)法定休日の適用から除外される
逆に下記のケースに該当した場合、管理監督者として認められるのは難しくなります。
(1)部署の権限は上席管理職にあり、人材の採用や予算の執行などの意思決定にはほとんど関わっていない
(2)労働時間について部下と同じく勤務時間が決まっており、自己裁量権がない
(3)雑務など、部下がその労働時間内でできない業務を代わりに行っているなど、管理職者としてふさわしい仕事をしていない(管理職の仕事は、チームの目標設定や部下の指導を通じて、組織の目標達成を支援することである)
(4)役職手当が支給されているものの、その額が職務内容に対して相応ではない。手当の額が低い、残業代が出ないなどで同年代の一般社員との給料差がほとんどない(年功制の賃金制度を導入している会社に多い)
一般的にAさんのような主任クラスを含む名ばかり管理職(管理職という役職に相応する権限や報酬が与えられないのに、管理職との理由で残業代を支給されない社員のこと)の場合、上記(1)から(4)までに該当することが多く、総合的に判断すると管理監督者には該当しないでしょう。
働き方改革の一環として、長時間労働の抑制や人件費削減を目的に一般社員に残業をさせない企業が増えています。一方で、残業代を支給する必要がないとされる管理職が雑用を担うケースが増えています。しかし管理職が労働基準法上の管理監督者に該当しない場合、残業代の支払い対象となるため注意が必要です。
特に長時間労働の名ばかり管理職者が残業代を請求する訴えを起こした場合、支払額が大きくなる可能性があり、企業にとってはリスクとなります。また、管理職者が期待される責任や業務量に対して報酬が不十分であると感じると、モチベーションや職務満足度が低下し、業務のパフォーマンスにも影響が生じます。
結果的に若手社員が昇進を断るのは社内における報酬の不均衡が大きな原因の一つであるといえるでしょう。
企業の考え方としては、役職者の職務内容や権限を見直し、適切な処遇を行うことが重要です。役職者の残業を減らすことが難しい場合は、その分を考慮して役職手当をアップするなどの措置が求められます。ただし、年功賃金制を採用している場合は、柔軟な対応が難しいこともあるため、根本的な賃金設計の見直しが必要かもしれません。
木村政美
1963年生まれ。旅行会社、話し方セミナー運営会社、大手生命保険会社の営業職を経て2004年社会保険労務士・行政書士・FP事務所を開業。労務管理に関する企業相談、セミナー講師、執筆を多数行う。2011年より千葉産業保健総合支援センターメンタルヘルス対策促進員、2020年より厚生労働省働き方改革推進支援センター派遣専門家受嘱。
現代ビジネス、ダイヤモンド・オンライン、オトナンサーなどで執筆中。
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