炎上、ボイコット、株価急落――それでもイーロン・マスクはなぜ政治に関与するのか:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
米トランプ政権に関与するイーロン・マスク氏が経営する企業のサービスで、サイバー攻撃や不買運動などが起きている。反発が大きい政策に関わっているからだ。なぜビジネスを危険にさらしてまで政治に関わるのか。マスク氏の意図とは。
長期的な目標へと突き進む
マスク氏の活動に対する「キャンセルカルチャー」(不買活動など)は、今のところ、マスク氏にあまり痛みを与えていないようだ。確かにテスラを売り払う動画がSNSで公開され、ボイコットを呼びかける投稿も少なくない。ただ、現時点で世界一の富豪であるマスク氏は、ビジネスの損失にも耐えられる資産を持っており、体力がある。現在の損失よりも、先に述べたように、長期的な利益に向かってまい進しているといえる。
重要なのは、トランプ大統領がマスク氏への信頼を失っていないことだ。トランプ大統領は最近もSNSにこんな投稿をしている。「共和党員、保守派、そして全ての偉大な米国人に言いたいが、イーロン・マスクは私たちの国を助けるために『全力を尽くし』ており、素晴らしい仕事をしている。しかし、過激な左翼狂人は、いつものように、世界有数の自動車メーカーでありイーロンの『子ども』であるテスラを違法に、かつ共謀してボイコットし、イーロンと彼が支持する全てのものを攻撃し、害を与えようとしている」
そしてこう続けている。
「私は明日の朝、真に偉大な米国人であるイーロン・マスクへの信頼と支持を示すために、真新しいテスラを購入するつもりだ。米国を再び偉大にするために彼の素晴らしいスキルを働かせたからといって、なぜ彼が罰せられなければならないのか???」
そして翌日に、実際にホワイトハウス前にテスラを並べて、トランプ大統領は新車を購入した。マスク氏は、短期的な損失を受け入れつつも「着実に、そして猛然」と突き進んでいるようだ。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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