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NTT東日本、インターン応募者3倍に 人気低迷から復活を遂げた「採用戦略」(2/3 ページ)

NTT東日本のインターンが人気を集めている。以前は「学生のあこがれから遠ざかっている」という危機感があったが、どのように就活生から支持される企業に復活していったのか?

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メンター経験が一種のキャリアステータスに

 NTT東日本では、ダブルワーク制度が一種のキャリアステータスとして認識されている。採用制度にダブルワークを導入してから、社内にも多く認知されメンターの応募倍率が2倍に増加したのだ。

 社員の採用業務への関与が広がり、より多くの世代がインターンに関わるようになった。本制度は、学生にキャリアのロールモデルを示すだけでなく、社員自身が自社の魅力を再認識する機会としても機能している。

 また、メンター同士の横のつながりも広がっており、この5年間で100人近くの社員がダブルワークを利用して採用業務に参加した。同じ志を持つメンバーの集まりということから、意気投合しやすく、仕事の場面でも新たなコラボレーションが生まれるきっかけになっている。

 一般的に、企業のインターンには、主に人事・採用部門の依頼を受けた社員が参加する。しかし、NTT東日本では自発的に関与する社員が増えており、その広がりがインターンの質の向上にもつながっている。

 この変化は、学生の満足度向上はもちろん社員のエンゲージメント向上にも寄与している。特に、現場の社員が直接学生と関わることで、自社のリアルな姿を伝えやすくなった。この効果は社内にも広がり、他部署でもインターンと連携した人材育成の動きが加速している。

 学生との関わり方にも工夫がある。メンターには「良い点だけでなく、改善点も伝えてほしい」と伝えており、1日の終わりには必ず1on1の時間を設け、フィードバックを実施。学生が前向きに成長できるようサポートしている。

 また、メンターは就活相談にも対応し、学生にとって「人事ではなく、現場社員だからこそ話しやすい存在」となっている。若手社員から中堅社員まで、多様な社員が関わるため、企業の実態を知る機会としても有用だ。

 先述したように、メンターを務める社員自身にも大きなメリットがある。ダブルワークを通じて会社の技術や事業について学ぶ機会が増え、それが本業のスキルアップにもつながるからだ。特に、3年以上メンターを経験した社員の多くは、製品や事業ドメインへの理解を深め、学生に具体的な情報を提供できるようになっている。

 こうした経験を重ねることで、単なる技術者ではなく、人事的な視点も持てるようになり、学生へのサポートの幅が広がった。その結果、より包括的な支援が可能となり、インターンの質の向上にも貢献している。

3カ月の成長から、入社後の適応力が見える

 インターン改革の当初から、そのコンセプトとして掲げ続けているのが「学生の成長」だ。この軸は、今もぶれることなく後任へと引き継がれていく。

 「学生の成長が目に見えるのが、このインターンの大きな特徴です。例えば、夏のインターンに参加した学生と冬のインターンで再会すると、短期間での成長度合いが確認できるだけでなく、その変化量が入社後の適応力にも関係していることが分かりました。たった3カ月でも、大きく成長する学生が多い。短期間での成長が、長期的なキャリアの形成にも影響を与えるのです」(伊藤氏)

 最初は「SEとは何か?」という段階だった学生が、インターンを通じて社会人としての基礎を学び、キャリアの方向性を明確にしていく。さらに、その経験をもとに技術を深め、自らの成長を実感する学生も少なくない。

 この数年で、インターンの設計を事務系や技術系の区分から、職種ごと(ジョブ型)に変更したことで、参加する学生の総数が増加した。特に、文系学生の増加が顕著であり、実際にSE職のインターン参加者の約4割を占める。参加者の中には、夏と冬で、別の職種のインターンに挑戦する学生もいるほどだ。


2024年に発表した、SE職インターンのコース概要とカリキュラム(画像:NTT東日本公式Webサイトより)

 「NTT東日本のSEは、プロジェクトマネジメントを専門分野として定めています。そのため、技術力だけでなく、高いコミュニケーション力も求められます。SE=技術職というイメージがありますが、現場では文系出身者も多く活躍しています。そういった背景から、ダブルワーカーにも文系出身で活躍している社員を積極的に迎え入れました」(田邉氏)

 デジタル人材の育成が急務である一方、顧客に対して「技術の話もできる営業」の重要性も増している。そうした意味でも、 文系だから営業、理系だから技術という固定概念にとらわれるのではなく、SEとしての技術の知見を持つ人材が営業として活躍するケースを増やそうとしている。NTT東日本を志望する文系学生の中には、将来的に営業職へ異動することを視野に入れながら、まずはSEなどの技術職を経験し、実践を通じて知識を深めたいと考える層も一定数いるという。

 採用の柔軟性の高さがうかがえるが、課題も残る。インターンを通じて企業理解は深まるものの、「入社後のギャップを完全になくすことは難しいが、そこを極力抑える努力をすることは非常に大切」と主にIT系・ネットワークエンジニア・サービス開発系の採用を担当する佐近祐貴氏(総務人事部 人事第二部門 採用人事担当 チーフ)は説明する。

 「入社前後のギャップは一定数発生しますが、それを極力減らす努力をすることは採用担当の非常に重要なミッションです。その解決策の一つとして導入したのがコース別採用です。専門性を軸とした人事制度になったため、自律的なキャリア形成には入社時の職種の理解をある一定水準担保する必要がありました。インターンシップを通じリアルな職種を学生に理解し、自身のキャリアを考えながらコース別でエントリーいただくことが長期的なエンゲージメント向上という意味にも非常に重要です」(佐近氏)

 また、ダブルワーカーが学生にとことん向き合い、彼らが希望する職種のリアルやキャリアの多様性を包み隠さず真摯に伝えることで、学生が納得して会社を選ぶ体制を構築。キャリアに対する不安を和らげる取り組みにより、入社後のギャップも徐々に解消された。現在、NTT東日本の新卒社員の3年以内の離職率は数%にまで低下しているという。

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