亀田製菓と赤いきつねの“騒ぎ”はなぜ広がった? 企業を襲う「1%の誹謗中傷」と新法の限界:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
4月1日に施行された「情報流通プラットフォーム対処法」は、企業の危機管理対策に活用できる可能性がある。具体的には……。
SNSの「デマ投稿」を放置するリスク
今は企業や組織で何か問題が発生すると、すぐにSNSで拡散してしまう。もちろん、味噌(みそ)汁にネズミが丸ごと入ってしまったみたいな不祥事は自業自得で致し方ない部分もあるが、時には騒動に便乗して、事実に基づかない偽情報やフェイクニュースまで拡散されてしまうこともある。これを防ぐのは、企業危機管理の世界では「ほぼ不可能」とされていた。
SNSや掲示板の事業者に投稿の削除を依頼しても、「はいよ」という感じで迅速に対応してくれるわけでもないので、偽情報やフェイクニュースはどんどん広がってしまう。しかし、だからといって発信元にダイレクトメールなどで「間違っているので削除してください」と直接お願いすると、今度はそのメールがスクショされ「大企業から言論封殺がきました!」なんて晒(さら)されて、火に油を注いでしまう。
だから、ネットやSNSでどれだけひどい悪評が流れても、身に覚えのないことで「早く潰れろ」などと罵詈(ばり)雑言を浴びせられても、企業側は「嵐」が過ぎ去るのをじっと待つしかなかった。
分かりやすいのは、亀田製菓の炎上事件だ。
2024年12月、同社のインド出身のCEOが「日本はさらなる移民受け入れを」と発言したとAFP通信が報じて大炎上。株価も暴落したが、実はこのCEOはそんなことは言っていない。「柔軟性を持って海外から人材を受け入れることが極めて重要になる」と世の日本人経営者たちと同じことを述べただけなのに、移民問題に関心の高いフランスの通信社ということもあって、「海外からの人材=移民」という感じで「バイアスのかかった意訳」をされてしまったのだ。
株価が下落したことを受けて、次にSNSで拡散されたのは「販売不振」「経営危機」という投稿である。この発言が「反日」だと受け取られたことで怒った人々が不買運動を起こし、亀田製菓の商品が売れ残っているという情報が拡散されたのだ。そこで、大量の柿の種などが棚に積み上がった写真も一緒に広まった。
しかし、これは「デマ」だった。日経POSデータを見ると、大炎上している最中の売り上げは何の変化もない。つまり、SNSで大いに盛り上がった「亀田製菓不買運動」は、何の実態もなかったのである。
ただ、これらの投稿を真に受けて「反日企業の亀田製菓が倒産間近!」という情報を拡散している人がたくさんいたのも事実だ。現実世界では誰も知らない、ほとんど影響がない話であっても、SNSでバズってしまえば、それが「歴史的事実」として定着してしまう、というのが今の日本なのだ。
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