USJの「思わず笑顔になる」褒め合い文化に学ぶ ポジティブなチームの作り方(1/2 ページ)
人間は放っておくと、本能的にネガティブな側面に目を向けがちだという。チームメンバーをポジティブに導くには、どうすればいいのでしょうか。USJのV字回復期を支える人材育成を担い、『最高の自走型チームの作り方』を執筆した梅原千草氏が、自己肯定感を高める3つの方法と、USJが実践する、メンバーにポジティブ感情を抱かせる「Hand IN Hand」という取り組みについて解説する。
この記事は、『最高の自走型チームの作り方』(梅原千草著、かんき出版)に掲載された内容に、かんき出版による加筆と、ITmedia ビジネスオンラインによる編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
人間は放っておくと、本能的にネガティブな側面に目を向けがちだという。チームメンバーをポジティブに導くには、どうすればいいのだろうか。USJのV字回復期を支える人材育成を担い、『最高の自走型チームの作り方』を執筆した梅原千草氏が、自己肯定感を高める3つの方法と、USJが実践する、メンバーにポジティブ感情を抱かせる「Hand IN Hand」という取り組みについて解説する。
「人の欲求は5段階に分類でき、低い階層の欲求が満たされると次の段階の欲求を求めるようになる」というマズローの欲求段階説があります。もっと成長したい、もっといいチームを作りたいなど、理想の実現に向けた前向きな向上心である5段階目の「自己実現の欲求」を生むには、承認欲求が満たされることが必要です。
承認欲求は、認められたい、評価されたいという欲求です。
上司から褒められたり、チームメンバーから頼られたりすると、認められたという満足感が得られ、さらに高みを目指していくポジティブな向上心が生まれます。
一方、承認欲求が満たされない状態だと、自分に自信がなくなったり、「やるだけ損だ」と無気力状態が生まれたりしてしまいます。リーダーがこの状態になってしまうと、自信を持って判断や指示が出せなくなり、メンバーの承認欲求を満たす余裕もなくなります。
ただ、リーダーが褒められる機会は多くはありません。
あなたは最近、いつ褒められましたか? と聞かれても、思い出せない人もいるのではないでしょうか。どんなに頑張っていても、必ずしも周囲から認める言葉をかけられるとは限らず、承認欲求は満たされないことが多いものです。
そんなときに必要なのが、自分で自分を認める力、自己肯定感を高めることです。
ネガティブな感情を0にする必要はない
自分自身で承認欲求を満たし、ポジティブな状態が生まれれば、自信を持ってメンバーと接することができます。それがメンバーにも好影響を与えます。
承認欲求には、「低位の承認欲求」と「高位の承認欲求」があります。
低位は、先述した誰かに褒められたい、認めてほしいという欲求です。これは他者次第のため、コントロールができません。周囲から褒められたい、家族にもっと感謝されたい、SNSの投稿に「いいね!」を押してもらいたいと思っても、望む通りにはなりません。
一方、高位は、他者にどう見られるかではなく、自分軸で達成感を覚えることで、自分に対し満足を得る欲求です。
こちらは自分次第です。他者に依存するのではなく、自分でコントロールができます。そして、行為や思考で対処し、自己肯定感を高めることができます。
そもそも人は本能として、ポジティブな情報よりネガティブな情報に目が向く傾向があります。褒められたことより注意をされたことが記憶に残りやすく、成功したことより失敗したことを思い出してしまいやすいものです。これを「ネガティブ・バイアス」と呼びます。
このバイアスは、狩猟時代の生存競争を生き抜くために危険を察知する能力として人間が身につけてきた経緯があります。
ネガティブ感情にも役割があり、ゼロにする必要はありませんし、できません。ただ、このバイアスが強すぎると悲観的な思考に陥りがちになるため、自己実現の欲求が生まれにくくなります。
アメリカの心理学者バーバラ・フレドリクソンは、ポジティブ感情とネガティブ感情の理想の割合は3:1だと言っています。この割合が分岐点になり、ポジティブ感情の割合が3:1以上になると、物事が今まで以上にスムーズに動き出すのです。なお、8:1以上になるとネガティブな面が見えなくなり、弊害が起こります。バランスが必要です。
平均的には2:1が多く、心が疲れている状態では1:1以下になるそうです。
そのため、普段から意識して、承認欲求を満たし、ポジティブ感情を抱く工夫をする必要があります。
今日から始められる、自己肯定感を高める3つの工夫
私自身、自己肯定感が低く、行動を控えてしまう傾向があります。そこでポジティブ心理学や行動心理学などの理論を体系的に学び、意図的にポジティブ感情を抱く機会を増やしてきました。
その中で、すぐに始められ、効果的だと思ったものを3つご紹介します。
(1)「今日よかったこと3つ」を日記につける
1日の終わりに、手帳やノートに今日のよかったことを3つ書き出します。物事のポジティブ面を見る習慣を身につけるために行いますので、よかったことの大小も、他者から見ていいかどうかも関係がありません。自分が「いいこと」だと思えばそれでいいのです。
例えば、昨日の私のよかったことは「青空と澄んだ空気の中で犬の散歩ができて気持ちよかった」「取引先のメールにイラっとしたが返信する前に一呼吸おいて冷静になってから返信できた」「読まないといけない本を半分読むことができた」です。
(2)ネガティブな出来事の「よかった点」を探す
起こったことを棚卸しし、ネガティブな経験の中にあるポジティブ要素に視点を向けます。まずは何があったのか、どんな感情になったのかを書き出し、出来事と自分の感情を受け止めます。そのうえで、その経験のよかった点はないか、その経験で得たことや次につながることはないかを問いかけて、ポジティブな言葉で表現します。
例えば、「大事な会議での発表の場で話しすぎてしまい、上司に途中で遮られた。とても悔しかったし、端的にうまく話せない自分に腹が立った」と受け止めたのちに、「でも、みんなが躊躇する中で発言できたことはすごい! もっとうまく話したいという向上心も湧いた」となります。
物事にはポジティブ面、ネガティブ面の両面があります。どのような経験にもポジティブ面がありますので、見つけてみてください。
(3)「やること付箋」を剥がして捨てる
達成感を得ることで、ポジティブ感情を持ちます。
育児休暇があけて職場に復帰し、時短勤務をしていた方が「毎日時間内にこなすことが多すぎて、何ができて、何ができていないのか分からなくなる。そして、何も終わらせることができないまま時間になってしまい、自分にがっかりしながら帰っている」と打ち明けてくれました。
具体的に昨日何をしていたのかを聞いていくと、とても多くの業務を行っていました。でも、本人に実感がないのです。
そこで提案したのが、タスクを1つずつ付箋に書いてパソコンに貼り、1つタスクが終わることに付箋を剥がしてゴミ箱に捨てることです。朝貼った付箋が、帰るときには確実に減っています。それを見ることで、達成感を得ることが大事なのです。ToDoリストを書いて、終わったら線を引いて消すでも構いません。
なお、付箋を捨てるときは、くしゅくしゅと丸めて「よし終わり!」と言いながら捨てましょう。リストに線を引くときは、目立つ色のペンを使って「はい、頑張りました〜」と言って線を引きましょう。そうすることで、さらに効果アップが図れます。
後日、その方は笑顔で「私けっこう頑張っていると思えるようになりました」と報告してくれました。
リーダーが自信を持ち、ポジティブな向上心が生まれている状態で、仕事やメンバーと接することが大事です。自分の承認欲求を満たす方法としてこの3つを使ってみてください。
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