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なぜ旅館は「1泊2食付き」を続けるのか 観光地の夜が静まり返る本当の理由スピン経済の歩き方(1/6 ページ)

「1泊2食付き」から「朝食のみ」や「素泊まり」へと転換する事業者が増えている。日本の観光ビジネスにとって良い兆しだが、なぜかというと……。

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スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 本連載では、私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」をひも解いていきたい。

 こっちが「喜んでくれるだろ」とやっていることが、実は相手はそれほど喜んでおらず、むしろ「押し付けがましい」と煙たがられてしまう――。

 職場などの人間関係などでよく聞く話だが、これは「おもてなし」にも当てはまる。日本の温泉宿や旅館の売りの一つである「1泊2食付き」が利用者から思いのほか不評で、「朝食のみ」や「素泊まり」へと転換する事業者が増えているというのだ。


「1泊2食付き」を選ぶ人が減っている?(画像はイメージ、出典:写真AC)

 『東洋経済オンライン』の記事(2025年4月20日)によると、京都などの観光地において「1泊2食付き宿」に宿泊する外国人観光客は、提供された夕飯にちょこっとだけ口を付けて食べ残し、「明日からは出さないでくれ」とキャンセルするパターンが多いという。彼らが考える「日本食」というのは焼肉、寿司、ラーメンなどであり、「1泊2食付き宿」が提供する懐石料理的なものではないからだ。

 そう聞くと「日本の旅館文化へのリスペクトもなく、ワガママ三昧の外国人観光客など今すぐ日本から出ていけ!」と外国人観光客へ憎悪を募らせる方も多いと思うが、実は同様の声は日本人観光客からも挙がっている。

 『日本経済新聞』の記事「草津や城崎温泉、素泊まり拡大 旅先の夕食は街ごはん」(2025年3月1日)によると、草津温泉や城崎温泉などの有名観光地で、「夕食に好きなものを食べたい」「食事時間の制約を受けたくない」という客のニーズが高まっており、宿側も人手不足の解決策として「素泊まり型施設」が相次いで開業しているという。

 例えば、群馬県の伊香保温泉に2024年11月にオープンした「楓と樹」(ふうとき)は、温泉街を一望できるテラスやルーフトップバーなどを備えているが、食事は朝食しか付いていない。公式Webサイトでは以下のように記載している。

「画一的な『旅館メシ』からの脱却と、みんなでわいわい楽しめる食の空間創りを目指して私たち楓と樹は、メインダイニングを『焼肉レストラン』としてクリエイトいたしました」(楓と樹の公式Webサイト)

 つまり、宿泊客の中で「焼肉」を食べたい人は館内のレストランで食べるが、それ以外の食事を求める人は温泉街に繰り出して、地元レストランで好きなものを食べてください、というスタイルが増えているのだ。

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