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FAX100%、デジタルアレルギー 運送業界でDXが進まない根本理由(1/2 ページ)

運送業界でDXが進まない根本理由は何なのか? 元トラックドライバーでもある気鋭のライター・橋本愛喜氏が、自身の経験を交えて解説する。

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 トラックドライバーへの「働き方改革関連法」が施行されて1年。

 世間では「2030年までに(国内の)35%の荷物が運べなくなるかもしれない」という懸念をもって「2024年問題」と騒がれた。迎えた同年4月1日の施行日以降、スーパーやコンビニにこれまでと変わらず売れ残るほど並ぶ商品を見るや否や、「なんだ大丈夫じゃないか」と言わんばかりに世間の関心は急減した。

 いつもその努力が評価されない「当たり前」を支える現場。しかし物流の2024年問題は、決して施行をもって「終わった」のではない。むしろ「始まったばかり」なのだ。


トラックドライバーへの「働き方改革関連法」が施行されて1年(写真提供:ゲッティイメージズ)

「2024年問題」の本質 「企業間輸送」にアリ! 

 運送業界を語る際は、毎度必ず「世間の誤解」から正さないといけない。それは、運送の主軸は「宅配ではない」ということだ。「ものを運ぶ仕事」というと、普段玄関前に現れる「宅配」を思い浮かべるかもしれない。

 しかし、全日本トラック協会のデータによると、ラストワンマイルを担う宅配の割合は、物流の総輸送量のわずか「7%以下」。自社のデータを直接分析できる大手宅配企業の専門家には「2〜3%」と主張する人すらいる。では、残りの90%強が占めているのは何なのか。それは「企業間輸送」だ。

 例えば、ECサイトでレトルトカレーを購入するとしよう。それを自宅の玄関に運んでくれるのは「宅配の配達員」だ。しかし、レトルトカレーを製造する際には、農家や業者から製造工場へ食材を運び込むのにも「輸送」が必要になる。この輸送を担っているのが企業間輸送なのだ。

 縦にも横にも長い日本列島。産地から製造工場が1000キロを超える場合もある。つまり、2024年問題というのは「さっきECサイトで注文した商品が明日宅配で届かなくなる問題」なのではなく、「その注文しようとした荷物そのものが“作れなくなる”問題」なのだ。

 もちろん昨今のECサイトの普及により、宅配の現場も人手不足や諸問題が深刻化している。しかし、「2030年までに35%の荷物が運べなくなる」問題の当事者は、輸送量から見ても、その労働形態から見ても、ラストワンマイルではなく、社会インフラを根本から支える「企業間輸送のトラックドライバー」だと認識する必要がある。

運送業界がDXできない要因

 そんな企業間輸送の中で、現在待ったなしなのが「人手不足」だ。

 運送業は高度経済成長期以来、慢性的なドライバー不足に頭を抱えてきた。しかし、今回の働き方改革の施行に向けてドライバーの労働時間を短縮した企業が増えてくると、徐々に業界の人手不足も加速。同じタイミングで同法が施行される建設業とともに、倒産件数は年々増えていった。


人手不足に伴う倒産が増えている(帝国データバンクより引用)

 運送業界の人手不足は、決して日本の労働人口そのものの減少が主因ではない。現場に蔓延(はびこ)る「古い商慣習」や「劣悪な労働環境」こそ、業界に人が集まらない一番の要因になっている。

 そんな現場に求められてきたのが「業界全体の意識改革」と「機械化・DX」だ。

 企業間輸送の現場が抱える「待機時間」という長時間労働の根本原因の解消や、不足人材の補強、安全な労働環境の構築や効率性向上には、1日でも早いデジタル化・DX化が必要だと長年に渡り言われてきた。しかし、働き方改革が施行され1年が経(た)とうとしている現在の現場を見てみても、DXには程遠い「紙」と「人」と「時間」が交差する超アナログ的な世界が広がっているのが現状なのだ。

根付いたデジタルアレルギー  FAX利用100% 

 この業界におけるDXの最大のストッパーになっているのが、現場の「デジタルアレルギー」だ。運送業界は、総体的にみてもデジタル化や機械化などに対するアレルギーが強い。中でも驚くのがFAX利用の多さだ。

 各地の講演に回る際、参加した経営者たちに「自社でFAXを使っているか」と問うと、ほとんどの会場で集計結果が「100%」になる。

 仕事の受発注業務の大半は、電話とFAXというのが業界の常識となっており、FAXで受信した書類に押印して「リファックス」するなどが日常茶飯事に行われている。

 このFAXを使用しているのは、内勤の事務員だけではない。現場のトラックドライバーたちも、所属している会社などから送られてくる書類を、メールなどではなくFAXで受け取っているのだ。


トラックの車内に置かれている5段にも及ぶレターケース(ドライバー提供)

 といっても、当然車内にFAX機が装備されているわけではない。

 企業間輸送のトラックドライバーたちには、一度地元を離れると数日、長い時には1週間以上地元に戻らず、全国各地を走り回る人が少なくない。そうなると、次に向かう仕事先に提出する送り状や受領印などを会社から直接受け取れないため、ドライバーは各地にあるコンビニの送受信受取サービスを利用し書類を受け取るのだ。

 このように、令和も7年になった今でも、業界でFAX利用がやめられないのは、ひとえに「ネットワーク効果」によるものだ。

 つまり「みんなが使っているから(仕方なく)自社も使っている」状態といっていい。 効率が悪いと分かっていながらも“紙頼み”の現状を変えられない現場。そんな状況に文句も言えず耐えるドライバーたちを目にするたびに、業界全体に張り巡らされたこのネットワークからの脱却には、かなりの労力と時間がかかると思い知らされるのだ。

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