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社員は本当に幸せだろうか――? 新潟の金属加工メーカーが挑んだ、エンゲージメントを高める方法(1/2 ページ)

新潟県燕市にある金属加工メーカー株式会社シンドー。従業員約90人、商品開発やOEM生産、材料販売などのモノづくりを中心事業としながら、理念経営に力を入れています。その一環として2022年10月にエンゲージメント活動をスタートした同社は「社員の幸せ」と向き合いながら、ボトムアップ型の組織づくりにチャレンジしています。

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この記事は『わたしたちのエンゲージメント実践書』(株式会社アトラエ Wevoxチーム著、田中信著、日本能率協会マネジメントセンター)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。


 1947年に創業、新潟県燕市にある金属加工メーカー株式会社シンドー。従業員約90人、商品開発やOEM生産、材料販売などのモノづくりを中心事業としながら、理念経営に力を入れています。その一環として2022年10月にエンゲージメント活動をスタートした同社は「社員の幸せ」と向き合いながら、ボトムアップ型の組織づくりにチャレンジしています。

 「本当に、みんなが幸せに働いているのか。この疑問から活動がスタートしました」と語る、推進者の相場さんに、活動の背景や取り組みを聞きました。

相場雄大さん(デザイン経営推進室 室長)

人材サービス企業の営業職・管理職を経て、2021年5月、株式会社シンドーに入社。

営業部にて営業活動に従事しながら、全社横断型のエンゲージメントプロジェクトを立ち上げる。

2024 年4月にデザイン経営推進室が立ち上がり、室長を務める。



写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

よくある課題と事例からの学び

課題:活動でどう組織が変化するかイメージがわかない

学び:4つのフェーズでの組織の変化、各フェーズでの組織状態や推進者の考え方


課題:職場での「対話」をどう行えばいいか分からない

学び:エンゲージメントサーベイを起点とした振り返り会


課題:どうやって活動を周知すればいいか

学び:表彰制度の活用、社内報の活用

社員はみんな、本当に幸せなのだろうか?

――エンゲージメント活動をスタートした経緯から教えてください。

 当社は理念経営を遂行していて、理念には「社員とその家族の幸福を支える」や、「モノづくりを通して、人の心を豊かにする」を掲げています。さらに、社長も「社員の心と心をつなぎたい」と語っています。

 私自身、その考え方に深く共感しているからこそ、「社員はみんな、本当に幸せなのか?」「お客さまの心を豊かにすることは素晴らしいが、自分たちの心は豊かなのか?」と疑問を抱きました。

 と言うのは、シンドーに入社した際、表現が難しいのですが、会社に活気がないと感じました。振り返ると、コロナウイルスの影響などさまざまな面で、会社全体の過渡期だったように思います。私は、会社の理念に共感しているからこそ、「この現実と理想のギャップを埋めたい」という思いが強くなりました。

 そして、社員やその家族が幸福で、心豊かな生活を送る姿が真に体現されるよう、どう自分に後押しができるかを考えるようになりました。

 そこで、理想を現実にするためには、経営側の想いを発信するだけではなく、社員一人一人の声にも耳を傾けながら、新たな企業風土を共に構築していく必要があると考えました。その解決策の一つとして浮かんだのが、エンゲージメントサーベイの導入です。この提案を経営陣に行い、2022年10月からエンゲージメント活動を本格的に開始しました。

――これまでの活動内容を教えてください。

 これまでのエンゲージメント活動は、4つのフェーズに分けられます。フェーズ1では、全8部門から各2人ずつ推進メンバーを選出することからスタートしました。推進メンバーは、自部門のエンゲージメントスコアを振り返り、それをレポートにまとめ、月1回、他部門と共有する「全体振り返り会」を開始しました。


活動の4つのフェーズと取り組み

 フェーズ2では、推進メンバー以外の社員も参加する「部門振り返り会」を開始しました。これにより、部門の話し合いを経てから全体振り返り会が行われるようになり、より多様な社員の声が反映されました。また、社内報の配信を開始し、横のつながりを強めました。

 フェーズ3では、経営層からの発信を強化しました。具体的には、エンゲージメントサーベイに寄せられるコメントに対する経営層からの返答や、エンゲージメント活動に関連する表彰制度の導入など、経営と現場をつなぐ取り組みを進めました。

 フェーズ4では、2024年4月にデザイン経営推進室を立ち上げ、従来の活動をブラッシュアップするとともに、新たな取り組みを始めています。

 例えば、シンドーが大切にしたい価値観をテーマに、部門の垣根を超えて対話する「心動 FORUM」というオープンディスカッションの場を設けました。これには社員から多くの反響がありました。

部門と全体、2つの振り返り会で対話を促進

――エンゲージメント活動で意識していることはありますか?

 意識しているのは、活動の根底に「自社らしさ」を据えながら、「より良い状態を目指す」ことです。具体的には、例えば理念に掲げる「社員やその家族の幸福、心の豊かさに対して、私たちはどうあるべきか」といった問いを常に意識しています。この問いこそが、シンドーがエンゲージメント活動を行う意義そのものになると考えているからです。

 また、自分一人だけで答えを出さないことも意識していて、そのためにも「問い」を活用します。周囲の方に「どう思いますか?」と聞いて意見交換をすることや、先ほども触れた月に一度開催する「部門振り返り会」や「全体振り返り会」でも問いを立てて、多様な意見を聴くことを意識しています。


部門・全体振り返り会

――問いに対して対話、アウトプットをする機会が部門、全体の視点でそれぞれあるんですね。

 そうですね。全体振り返り会では、エンゲージメントサーベイに寄せられたコメントを活用し、例えば「もし自分がシンドーの経営層だったら、このコメントにどう回答するか」といったお題を立てて推進メンバーで対話しました。

 このような“立場を仮定した問い”を用いることで、第三者の立場になって考える機会をつくり、考え方の幅を広げています。実際に参加者からは、「自分にはなかった視点に気付いた」「他者の考えに触れることで、自分の考えが広がった」といった声が寄せられています。これには私も同じ感想です。

 部門振り返り会では、普段なかなか考えたり話したりしない「自部門の好きなところ」をあえてお題にしたりしました。これにより、自分の思考を内省したり、考えを共有することで自己開示が促されたり、互いの認識を深め合うことができます。「〇〇さんの意見は意外だった!」や、「自部門の良さはやっぱりここだよね」など、互いに再確認する機会になりました。

 ちなみにそこで出た大切にしたい自部門の好きなところを3つにまとめた「大事MANトリオ」をデザインし、各部門のデスクなど、見えるところに置いてもらったりもしました。日々の業務の中で忙しくて大変な時、みんなで決めた自分たちらしさがふと目に入れば、「私たちってこうだったな」と立ち返れるのではないかと考えます。

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