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AIで浮いた人材は、切らずに「玉突き」せよ AI時代の経営“新常識”とはAI・DX時代に“勝てる組織”(2/2 ページ)

DeNAが大々的に表明した「AIにオール・イン」戦略。「既存事業を半分の人員で成長させる」計画は、単なる人員削減ではなく、余剰人材を新事業などに再配置することが大きな特徴です。「AIを導入し、浮いたリソースをどこに再投下するか」は経営の大きな分岐点になっています。

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【人材ポートフォリオの再設計とリスキリング】

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(提供:ゲッティイメージズ)

 こうした仕事の変容が進む中で、各社が直面するのは「空席と空時間が突如生まれるが、それをどう再投資し、どのように人を配置転換するか」という経営上の課題です。

 いわゆる「リストラ」だけで終わらせると、企業自体の成長力が削がれてしまう恐れがあります。そうではなく「浮いた人材こそ、次の新規事業や高付加価値領域へ向かう原動力」に変えるための仕組みがカギとなります。

3領域モデル

 一部の企業で概念的に取り入れているのが、業務を「消滅領域」「拡張領域」「創造領域」に切り分ける考え方です。

1.消滅領域

  • ルール駆動・反復的なタスクを全面的にAIやRPAへ移管し、人間の介在を最小化する領域
    • 定型集計、簡易な問合せ対応、パターン化された事務など

2.拡張領域

  • AIが出力速度を格段に高め、かつ人間の判断やクリエイティビティが必要な領域
  • AI×人間のオーグメンテーション(人間の能力・出力を強化すること)により生産性を飛躍させるポジション
    • 企画、マーケ、データ分析、クリエイティブなど

3.創造領域

  • 問いの設定、戦略・価値基準の設計、チェンジマネジメントなど、人間のリーダーシップと高度な問題解決が求められる領域

 消滅領域で生まれる人材を、拡張領域や創造領域へどうシフトさせるかが勝負の分かれ目となります。

 先述のDeNAや清水建設はまさに消滅領域や拡張領域を思い切りAIに任せ、そのぶん社員を新規ビジネスへ動かすことで、AI投資が企業価値向上に直結する構造をつくっています。

玉突き式の人材再配置

 この3領域モデルをさらに企業組織に落とし込む際には「L1:業務効率化プラットフォーム」「L2:既存事業の高付加価値化」「L3:戦略的ニュービジネス」という階層で定義する方法が用いられます。例えば、下記のような分類です。

L3:ストラテジック&ニュービジネス

  • 未来の稼ぎ頭を創出する
  • 企業内VCや事業開発室、M&Aチームなどで、中長期の成長戦略を描く

L2:既存事業の高付加価値化

  • 既存のプロダクト部門やカスタマーエクスペリエンス向上プロジェクト、リスク・法務といった部門で、AIを活用して付加価値と粗利を高める
  • NPS(顧客満足度)の向上やコンプライアンスの強化など、品質と収益を両立する。

L1:業務効率化プラットフォーム

  • DX推進部やシェアードサービス部門、RPA×GenAI CoE(Center of Excellence)を設置して、全社の定型業務削減を支援する
  • 「市民開発者」「AIサポートアナリスト」として、ノーコードツールやRPAを駆使して現場業務を自動化・可視化する役割を担う

 重要なのは、既存の企画部門などをL3へ押し上げ、その後釜としてリスキリングした中堅や若手をL2へ配置し、ルーティン業務に従事していた層を短期研修でL1(業務効率化推進)へ回す――といった“玉突き”が計画的に起きるよう、最初に全体の組織ポートフォリオを示すことです。

リスキリングの階層別ロードマップ

 実際に人材再配置を円滑に進めるためには、適切なリスキリング施策が欠かせません。多くの企業で採用が進むのは、ブートキャンプ式やOJTハイブリッド式の段階的育成です。

1.アセスメント

  • 全従業員を対象にAIリテラシーや数理・創造力、協働力、AIへの興味度などを診断し、適性を把握する

2.ブートキャンプ

  • 特に消滅領域業務に従事する社員や希望者を中心に、4〜12週間程度の集中講座を実施する
    • プロンプト設計、ノーコード開発、データリテラシーなど、AIの基礎を学ぶ

3.アプライ(実案件OJT)

  • 3〜6カ月ほど実案件に配属し、AI活用による業務効率化や企画立案を実践する
  • バディ制度やメンターを充実させ、継続的にスキルを磨く

 ここで経営や人事が注意すべきは「社員をフェーズ分けして投資する前に、そもそもの組織ポートフォリオをどう変えたいかを経営トップが明確化しておく」ことです。

 ゴールが曖昧(まい)なままリスキリングを進めても、社員にとっては「一体どこに行き着くのか?」が不透明でモチベーションを保ちにくいため、結果的に研修離脱や早期退職を招きやすくなります。

【潜在課題とリスクマネジメント】

指導者側も未習熟と認識する

 管理職や中堅層がAI活用を十分理解しないままでは、新人や若手を正しく指導できません。加えて、AIが生み出すアウトプットを評価・フィードバックする基準をどう設計するかも課題です。

 例えば「AIが作った資料をそのままコピペしていないか」「社内秘情報を外部APIに流出させていないか」「AIには生成できないオリジナルの価値をどこまで加えているか」など、従来なかった評価指標が必要となります。

 よって、まずは指導側のリスキリングと評価体系の整備が重要です。

学習格差の拡大

 AIやプログラミング、データ分析に興味を持つ一部の社員(いわゆる自走層)は急速にスキルを伸ばしますが、大半の社員がそこに追随できない可能性があります。

 企業としては「ピアレビュー」(互いの成果をたたえ合う場)や「学習コミュニティー」での事例共有を活性化し、短いサイクルで成功体験を得られるようにする工夫が求められます。部署横断の「プロンプト勉強会」や社内ハッカソンを開催し、楽しみながらスキルを底上げする文化を醸成することも有効です。

上位職ポストの不足

 せっかく若手・中堅が高付加価値業務に必要なスキルを身につけても、受け皿となるDX部門や企画ポストが限られているとモチベーション低下につながります。

 ここでカギとなるのが「玉突き」の考え方です。既存の企画・リーダー層をさらに上位の戦略職(より経営に近いポジション)へ押し上げることで、「空いたポスト」にリスキリングした社員が入る余地が生まれます。

 経営サイドはトップポジションから順に高度な仕事を増やし、組織全体を「階段を一段ずつ上がる」イメージでスライドさせていく必要があります。

現場体験の希薄化

 AIに頼りすぎると、実際の顧客接点や現物を見ないまま資料だけで完結し、机上の空論になるリスクがあります。

 例えば新人がAIでビジネスプランを作って終わり、という状況では、実際の顧客課題を肌で感じる機会がなく、本質的な課題設定力が身につきません。

 従って、研修やOJTにはフィールドワークを必須にするなど、デジタル×身体性の両輪を守る設計が欠かせません。

AI投資をコスト削減で終わらせないために

 AIが定型的な情報収集や文書作成を担うほど、人間の仕事は「AIに指示を与え、何を問い、どう価値に変えるか」に集中します。

 結果として、組織は突然のように「空席と空時間」を抱えることになり、それらをどこへ再投下するかが企業の死命を制するでしょう。

  • DeNAのように「既存事業の効率化で空いたリソースを新規事業に振り向ける」
  • 清水建設のように「社内で育てたAIソリューションを外販ビジネスに昇華する」

 また、AI導入の先にある人材再配置とリスキリングの青写真をあらかじめ描くことが肝要です。

 成果を上げる企業は、「AIを導入すれば自然に生産性が上がるだろう」という他力本願ではなく、「AIによって空いた人材こそが新たな価値を生む中核になる」と考え、具体的なロードマップを設計しています。

 今後は、AIは企業にとっての「コスト削減ツール」ではなく、「人材再投資の呼び水」であると捉えるかどうかが、競争力の分水嶺となり得ます。

 AIをいかに導入し、いかに組織を変え、いかに人材を生かすのか。その決断をリードするのは、ほかでもない経営トップと人事の戦略的な意志と言えるでしょう。

著者紹介:小出翔

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GrowNexus代表取締役

デロイトトーマツコンサルティングにて14年間のコンサルティング経験を経て、GrowNexusを設立。

多様な業界の大手企業・官公庁・自治体に対し、人事・組織改革、新規事業創出、業務効率化の戦略策定から実行・伴走支援まで幅広く手掛ける。近年はDX推進に加え、デジタル人材戦略から採用・配置・育成・評価・処遇に至る一貫した支援を実施。経産省・IPAのデジタルスキル標準策定も支援しており、デジタル時代の人材・リスキリングに特に強みを持つ。GrowNexusの代表として、伴走・成長支援型のサービスと、テクノロジーを融合した新しいサービスを提供。

著書に『未来のキャリアを創る リスキリング』『地銀”生き残り”のビジネスモデル 5つの類型とそれらを支えるDX』『働き方改革 7つのデザイン』他。

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