パナソニックHD、人事業務にAI活用 50人分の工数削減、その舞台裏は:人事のAI活用、ここまで来た! パナソニックHD編
パナソニックホールディングスは新人事システムにAIを活用して、50人分の工数削減につなげた。どのようなシステムなのか。
新連載:人事のAI活用、ここまで来た!
労働人口の低下や、IT人材不足などにより人手不足が深刻化している。以前より転職も盛んになり、採用やオンボーディングを務める人事は多忙を極めている。採用、定着、そして従業員エンゲージメント向上のため、人事施策にもっと力を入れたい。けれども「そもそも人事の人手が足りない」と嘆く企業も少なくない。
そんな中、期待を集めるのが生成AIを始めとするAI活用だ。定性的な業務も多い人事の仕事だが、AIはどこまで人間を支えてくれるのだろうか? 最先端の取り組みをしている企業に取材し、その事例を紹介する。
初回となる今回は、パナソニックホールディングスを取り上げる。新人事システムにAIを活用して、どのような成果を得たのか。
Q:人事業務のどのような部分にAIを活用しているか
人事制度・手続きなどに関する従業員からの問い合わせ対応として「ワンストップ人事サービス」を導入しています。
AIチャットbotによる自動回答機能の他、個人にパーソナライズされた情報を表示するマイページや、メタバースを活用した双方向のコミュニケーションの場を作るなど、テクノロジーと人の両面で、従業員体験の向上を支えるプラットフォームとなっています。
Q:サービス導入に向けて、いつから取り組んできたのか
ワンストップ人事サービスは2022年5月より企画・構想を開始し、2023年10月に導入しました。
Q:サービス導入後の成果は
問い合わせ時にサービス内のマイページである「マイカラ」を使うことで、スムーズに回答が得られるようになりました。
利用した社員からは「利便性が非常に高まった」「入社後困った際にすぐ解決できた」(キャリア入社者)、「人事申請書類を都度ダウンロードせずとも、簡単に申請が完了するので、非常に楽だった」(男性育休取得者)などの声が届いており、一定の効果が出ていると考えています。
Q:人事業務にAIを導入した理由として、どのような課題があったか
以前は人事制度・手続きの窓口が7つに分かれており、従業員自身が問い合わせ内容によって適切な窓口を探し当てる必要がありました。
その結果、各部門においてHRBP(HRビジネスパートナー)の役割を担う人事社員が年間約50人分の工数を割きながら、問合せ窓口へ誘導したり、HRBP自身が回答をしたりと非効率な運営が行われていました。
これらの課題を解決するため、従業員体験価値の向上と、人事社員の生産性向上を目指し、本取組みの導入を判断しました。
Q:課題はAI導入により、どの程度解消したのか
前述の通り、問い合わせ窓口の誘導や回答を行っていた50人分が効率化され、利用する社員の利便性・体験価値が向上したと考えています。
Q:導入に当たり、障壁はあったか
ワンストップ人事サービス導入前は、パナソニックグループ各社で異なる人事制度のもとオペレーションが行われていたため、それらをまとめて一つのプラットフォームに集約をすることが困難でした。
サービスの導入により、効率化とともに投資対効果を高められるよう、グループ全体が共通のプラットフォームで運営できる体制の構築を目指し、地道にシステム開発を行いました。
Q:人事業務にAIを活用するにあたり、気を付けていることは
AIで全てのプロセスが代替できるわけではないので、AIで解決ができなかった場合の有人対応のフォロー体制を整えています。
また、AIチャットbotのような機械的な対応ではなく、有人感のある温かみのある対応を求める社員に向け、メタバース空間を用意しています。セルフサービス支援、コンシェルジュ直接面談、セミナー実施、従業員コミュニティーなどを提供しています。
Q:人事業務でのAI活用について、今後の目標や展望は
現在はシステム利用率が7割にとどまっているため、今後は認知度向上を図り、投資対効果を最大化していきたいです。2024年度中に利用率9割、25年度上期中には10割を目指します。
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