ハーゲンダッツ、“まさか”の伸び悩み? 打開策で注目する「差し入れ文化」(5/5 ページ)
日本でプレミアムアイスとして人気を集めるハーゲンダッツだが、近年は成長が伸び悩んでいる。その背景には何があるのか。そして、同社はどんな手を打とうとしているのか。
ハーゲンダッツが新たに注目した「日本ならでは」の文化とは
農畜産業振興機構の「世界8か国のアイスクリーム消費動向および購買志向」調査によると、アイスを食べる理由で最多は「おいしいから」です。そして、「ちょっとした自分へのごほうびとして」「食後のデザートとして」が続いています。一方、日本では、おいしさやデザートとしてのニーズが他国と変わらないものの「自分へのごほうび」としてのニーズが各国の中で最も低い結果になっています。その代わり高いのが「おやつとして」でした。
あくまでも一つの調査結果ではありますが、日本の消費者に対して、アイスをごほうびという特別な日のギフトから、もう少し身近なカジュアルギフトなんだというメッセージを伝えていくことが効果的かもしれません。
ハーゲンダッツのメインターゲットは「F1層」と言われる20〜34歳の女性です。日本の世代別年間消費支出金額を見ると、29歳以下のアイスに対する消費金額は1万1430円(2024年)、前年比で103.6%と全世帯の平均(106.2%)を下回っています。メイン層が「ごほうび」だけでは動かなくなっているという一つの表れではないでしょうか。
このような中で同社では、2025年から新しいキャンペーンをスタートしました。それが「#差し入れクリスピーサンド」です。年間を通じて20万個のクリスピーサンド「ザ・リッチキャラメル」を無料で配布する大規模プロジェクトです。
「差し入れ」は日本人になじみのあるギフト習慣です。自分に対するごほうびではなく、お世話になっている人、何かを頑張っている人、何かに夢中になっている人の記憶に残るようなメッセージとして同社は「差し入れ」というキーワード設定をしたのです。これは新しいモチベーション訴求として有効に働くかもしれません。
特筆すべき点として、特別感を売りにしているものの、そのメッセージが自分に対してではなく他者に向いている点が挙げられます。差し入れならば、複数人分を購入することになるので、販売点数が増える可能性もあります。アイスクリーム購入層が40代以上の年齢層で活発である点を考えても、自分へのごほうびはしなくても誰かへの差し入れはする可能性が高まります。40代以上は、仕事でお世話になっている取引先や会社の上司、同僚、部下だけでなく、スポーツをがんばっている仲間など、付き合う人の幅が広く、差し入れの機会も多いからです。
ハーゲンダッツ ジャパンが今後も売り上げを伸ばし続けるためには、日本の消費者の意識変化をつぶさに観察して、それにきめ細かく対応するモチベーションマーケティングが必須です。しばらくは差し入れというメッセージが消費者に届くのか、その動向を見守りたいと思います。
著者プロフィール
岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)
ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。直近では著書『図解入門業界研究 最新 アパレル業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本[第5版]』を刊行した。
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