“爆速”開発チームの原動力は「否定しない文化」 エンジニアが生き生きした秘密(1/2 ページ)
サイオステクノロジーの喜多伸夫社長に、AI活用の要点やエンジニアが生き生きと働ける組織づくりの秘密を聞いた。
SaaSの開発・販売を手掛けるサイオステクノロジー(東京都港区)は、【28歳エンジニアがリーダー “爆速”で作った「AIワークフロー」がスゴイ】で紹介したように、グループ全体の社風として風通しが良い。結果的にソフトウエア開発のスピードを上げることに成功している。
同社は2024年に注力したRAG(検索拡張生成)に加え、2025年に入ってからはAIエージェントにも力を入れ始めた。IT業界のトレンドの変化に、臨機応変に対応している。
喜多伸夫社長にAI活用の要点やエンジニアが生き生きと働ける組織づくりの秘密を聞いた。
喜多伸夫(きた・のぶお)1959年生まれ。1982年に稲畑産業に入社。1990年代、米国赴任中にLinuxと出会い、帰国後の1999年にノーザンライツコンピュータの社長に就任。2002年1月、同社とテンアートニの合併に伴い新生・テンアートニ(現サイオス)の社長に就任(現任)。2017年10月、サイオステクノロジーの社長に就任(現任)
関心は「RAG→AIエージェント」にシフト サブスク事業に継続投資
サイオスの2025年12月期の業績予想は、売上高が前年比7.6%減の190億円の減収となっている。2024年にProfit Cube事業を住信SBIネット銀行に譲渡したことにより、2025年度はProfit Cube事業の売り上げがなくなることなどが、その要因だ。
一方の営業利益は同99.5%増の7000万円とほぼ倍増となった。喜多社長は「Profit Cubeの整理統合により成長性のある事業に注力できることが要因」だと話す。
経常利益は同15.3%減の1億6000万円となった。同社はデリバティブ取引をしていて、2024年には評価益が出たものの、2025年はそれがないことが影響している。
IT業界は、業界としての特性上、売上高の増減が他の業界と比べて大きい。その辺りのリスクヘッジについては「はい、そういうボラティリティを減らす必要があります」と答える。当面は、1月に新機能をリリースしたワークフローシステムのGluegent Flowなどの契約者数の増加に、力を入れたい考えだ。
「2025年も戦略の重点項目として、SaaS・サブスク事業への継続投資を挙げました。なぜなら、サブスクビジネスは、解約されない限り、毎年その売り上げがあがることが前提になり、新規顧客は全て上乗せなので、安定的に成長ができるからです。継続して使ってもらうのと、新規顧客開拓という2つのアプローチをすることで、着実に前年より成長できるようにしていきたいという取り組みです」
前回の喜多社長へのインタビュー時【「生成AI×RAG」の効果と課題は? 実装しないと「競争力を保てない」これだけの理由】には、RAGが話題になっていて、その活用方法について話を聞いた。その後、日系企業での広まりはどうか?
「この業界は、技術進化のスピードが速く、今はAIエージェントが注目されています。大手企業の一部ではRAGよりAIエージェントの方が、費用対効果が高いと考えて、こちらを導入しています。一方、検索性能を上げて社内に関する情報共有や情報基盤をより強固にするべくRAGを求める企業もおり、混在している状況です」
喜多社長にRAGとAIエージェントの違いを整理してもらった。RAGは、知りたいことをチャット形式で、自然言語で答えてくれ、社内情報を含め機密情報が漏えいすることなく活用できる上、答えの精度が上がるという。一方、AIエージェントはチャットではなく、平たく言えばRPA(人間が繰り返し行う単純作業の業務プロセスを自動化する技術)の進化系だ。
「つまり、RAGは生成AIを効果的に使うための『技術』ですが、AIエージェントは業務効率化といった『機能』だという違いがあります」
AIはハルシネーション(幻覚)を起こす可能性があるからこそ、RAGが必要になる。RAGなしのAIエージェントを導入しても、正確に業務を代行する保証はないようにみえる。「その通りです。まずはRAGを先に入れておく必要があると思います」と話す。AIエージェントを効果的に活用するのであれば、先にRAGの導入を推奨した。
DeepSeekは小さな先駆け
AIの進化では、中国のDeepSeekの登場がIT業界に衝撃を与えた。喜多社長に今後の生成AIの流れについてどうなっていくのかを尋ねた。「技術面で言えば、今の生成AIは非常に大掛かりな設備が必要で、それをフル回転させる必要があり、コストと電力消費が大きいです。時間の経過とともにダウンサイジングをする必要があると思います。また、DeepSeekは変化の小さな先駆けで、これからも破壊的な技術進化が登場し、それまでの常識的な技術が駆逐されていくでしょう」と予想した。
その一例として、米カリフォルニア大学バークレー校で、潜在的な破壊能力のある、劇的にコストを安くできる生成AIの研究成果などが発表されたそうだ。「今は、新しい生成AIを中心とした世界の入口にいる程度だと思います」
文化の違いをなくすために組織改編
Gluegent Flowの新機能開発に携わった松本明丈Gluegent Flowプロダクトマネージャと、プロジェクトリーダーを務めることになった川瀬翔大Gluegentサービスラインエンジニアに話を聞いた時に印象的だったのは、サイオスが風通しの良い社風だと話していたことだ。
誰もが風通しの良い職場を望む。だが実際にできるかどうかは多くの企業の課題だ。
「心理的安全性が確保できているかどうか。これが最も重要だと思います。1つの比喩としては、親子関係です。もちろん親子でけんかすることなどもありますが、基本的に、何があっても一般的にはその関係性は崩れないと思うのです。それと同じように何でも言えるような環境が作れるかどうかは、とても大事です」
サイオスは2008年、Gluegentを子会社化した。買収される側の人間は、肩身の狭い思いをしても不思議ではない。だがサイオスでは、それを一切感じさせなかった。
「実際には、そういうことがありました。それを軽減するために、組織変更をしました」
サイオスの歴史をたどると、1997年にテンアートニという名前で創業。2006年にサイオステクノロジーに社名を変更し、前述のように2008年にGluegentを子会社化。2015年にはキーポート・ソリューションズやProfit Cubeも子会社化した。
2017年に経営体制を変更。サイオスを持株会社とし、サイオステクノロジーを事業会社としたほか、各社がサイオスにぶら下がる形にした。そのサイオステクノロジーは2020年から2021年にかけて、各子会社を吸収合併している。
「まず、サイオステクノロジーとGluegentといった子会社が並列になるようにしました」と話し、グループ会社として対等であるようにした。「その上で、サイオステクノロジーに吸収合併をすることによって、会社として1つにする形にしました」。カルチャーの違いをなくすために一気に組織を変えるのではなく、慎重に段階を踏んでいった形だ。
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