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「売上」よりも「シェア」を追え――伊勢の食堂が辿り着いた、経営の最適解人は増やさず年商12倍(2/2 ページ)

伊勢の食堂・ゑびやの小田島社長が重視するのは、売上でも客数でもなく、「シェア」だという。

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シェアを軸にした経営思考

 私たちは「ゑびや」の入り口前の通行客数=人流データを測定しています。「来客数」を「通行客数」で割れば、「入店率」を算出できます。このデータを常に追い続け、前年比や直近の推移を把握しています。

 ある年の通行客数は前年に比べて約18%増加しました。一方、来客数は前年比で約28%増加。店の前を通る人数より、私たちの店の客数の方が増加率は高いことが分かります。

 つまり、シェアが増えたと言えるわけです。数字を確認すると、シェアは前年に比べて約8%増えていることが分かります。

 私たちが商売をするマーケット(伊勢神宮の参道エリア)において、「ゑびや」を選んでくれるお客さまの割合が8%増えたということは、私たちの店の付加価値が8%向上したと解釈できます。シェアを算出すれば、自分たちの事業価値が向上したことを数字で証明できるのです。

 例えば、次のような個別の施策に対する効果も検証できます。

  • ドリンクが半額になるクーポンを配る
  • 商店街が実施するスタンプラリーに参加

 こういった施策でシェアがどう変化するか。検証の結果、自分たちの行動がシェアの向上につながっていれば、有効な施策として継続しながらブラッシュアップしていく。逆にシェアが低下したり、変化が見られなかった場合は、イベントやアクションに投じるコストが無駄になるので中止する。シェアをもとに意思決定しながら、商品やサービスの付加価値向上に向けたサイクルを日々回し続けていけます。

「値上げじゃなかった」 シェアの分析で分かった、客が離れる意外な要因

 人流データとシェアの検証で、商売に大きく影響する要因も判明しました。それは「デザインやイメージ」です。店頭のメニュー看板やメニュー表などのデザインを変更した際に、シェアが大きく変動するケースが度々あったのです。

 特に2018年末に店頭のメニュー看板を一新したときは、写真やグラフィックデザインを変更し、従来とは異なるイメージを打ち出しました。もちろん売り上げや客数の増加を狙ったリニューアルです。ところが結果は、変更前は4.94%だったシェアが、変更の翌日には2.56%へと半減してしまいました。

 ただし、このときは同じタイミングで商品の値上げも行ったので、価格変更が影響した可能性もあります。また、メニュー看板の変更が影響しているとしても、その要因が写真なのか、それともデザインなのか分かりません。そこでデザインと商品価格を変更前に戻してみました。すると、シェアは3.36%となり、1%ほど回復しました。しかし、前年同月と比較すると2.6%ほど低い数字です。

 次にメニュー看板を変更前のものに戻しました。

 つまり写真もデザインも元に戻ったわけですが、シェアは3.8%に上がり、前年同月比で10%増と以前の水準まで回復しました。その上で商品価格を3%上げたところ、シェアは4%に上昇。値上げによってシェアが下がることはなかったと分かりました。

 こうして一つ一つの要因が及ぼす影響を測定した結果、「入店購買率に大きく影響するのは、価格よりデザインやイメージ」と確信できました。データ分析で効果を測定しなければ、ディスプレイの影響を正しく把握できず、リニューアル後の看板を使い続けていたかもしれません。あるいは、値上げのせいでシェアが減ったと誤解した可能性もあります。リニューアルのためにデザイナーやカメラマンを変え、お金をかけて制作した看板でしたが、マイナスの影響があることを客観的なデータで確認できたので、元に戻す判断ができたわけです。

 もちろんこれは「ゑびや」の場合であり、他地域の飲食店や他業態の店が検証すれば、また別の結果になるはずです。メニュー看板にしても、洗練された写真やデザインが好まれる店もあれば、素朴でやぼったいくらいの方が、シェアが上がる店もあるでしょう。

 重要なのは、自分たちのマーケットにおいて何がベストなのかを「シェア」を用いて検証し、判断することです。全く人がいないエリアなら話は別ですが、一定数の消費者がいる商圏であれば、シェアを追求し続けることで売り上げを増やしていける。今の私は自信を持ってそう断言できます。

筆者プロフィール:小田島春樹(おだじまはるき)

 三重県伊勢市にある妻の実家の老舗店を受け継ぎ、「ゑびや」代表に就任。AIなどを用いたデータ分析を取り入れ、経営改革に取り組む。

 2018年、株式会社EBILAB(エビラボ)を立ち上げ、来客予測を主軸としたデータ分析システムのサービス開始。マイクロソフト「People who inspired us」にて事例が紹介されるなど、世界からも注目を浴びている。


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