「売上」よりも「シェア」を追え――伊勢の食堂が辿り着いた、経営の最適解:人は増やさず年商12倍(1/2 ページ)
伊勢の食堂・ゑびやの小田島社長が重視するのは、売上でも客数でもなく、「シェア」だという。
この記事は、『仕事を減らせ。 限られた「人・モノ・金・時間」を最大化する戦略書』(小田島春樹著、かんき出版)に掲載された内容に、かんき出版による加筆と、ITmedia ビジネスオンラインによる編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
「経営の本質的な目的はシェアを追うこと」。伊勢の食堂「ゑびや」の経営改革に成功した小田島春樹氏は言う。企業の戦略行動の推進も撤退も、日々記録したデータを検証することで、方針が明確に定まっていく。小田島氏が執筆した『仕事を減らせ。 限られた「人・モノ・金・時間」を最大化する戦略書』より、シェアの追求を軸とした経営法について解説する。
データ分析によって導き出せる数字はさまざまです。 経営者がどの数字に着目するかで、経営方針や事業戦略も変わります。
私が重視する数字は「シェア」です。 なぜなら経営のベンチマークとして追い続けるのに適した数字だからです。「売り上げ」や「客数」そのものではありません。全体に占める割合に着目します。
つまり、「伊勢神宮を訪れる観光客のうち、『ゑびや』に入るのは何%か」「併設の土産物店に入った人のうち、商品を購入したのは何%か」などです。例えば、観光客100万人のうち、来客数が5万人ならば「シェア」は5%。観光客が200万人で、来客数が5万人ならば「シェア」は2.5%になります。
なぜ売り上げや客数を追わず、「シェア」を重視するべきなのか
売り上げや客数は外部要因の影響を受けます。近隣で大きなイベントがあれば、街全体の人通りが増え、その影響で自店舗の売り上げが増えることもあるでしょう。逆にコロナ禍のような非常事態が発生し、街全体の人通りが激減すれば、その影響で自店舗の売り上げが大きく減ることもあります。
あるいは「近所に競合店ができた」「地元から企業や工場が撤退した」などで売り上げや客数が左右されることもあります。どのビジネスもこうした変化に直面するはずです。外部要因による影響をコントロールすることなどできません。それにもかかわらず、売り上げや客数だけを見て、「増えた」「減った」「しょうがない」「もっとがんばろう」などと一喜一憂するのは建設的とは言えないでしょう。
対して相対的な数字である「シェア」は、外部要因の影響をほとんど受けません。このシェアが高いというのは、お客さまに魅力のあるお店として見られ、選ばれる割合が高いお店と言えます。つまり、シェアとは経営努力や現場の工夫によって付加価値の高い商品やサービスをお客さまにどう提供するかストレートに反映される数字であり、増やすも減らすも自分たちの力次第と言えます。
経営の本質的な目的は、シェアを上げること。これが若いころから商売を経験し、食堂の経営を継いでからExcelで数字を追い続けてきた私の結論です。
シェアの中でも、私が特に重視するのが「入店率」と「購買率」です。ある市場や商圏の中で、自分の店に入店する割合はどれくらいか。入店した人が商品を購買する割合はどれくらいか──これらを示す数字です。
シェアを割り出すとメリットは何か。ある施策を実行したとき、その効果を測定してシェアを算出すれば、経営にどう影響したかをデータで把握できます。例えば、看板メニューのデザインをオシャレにしたとき、シェアは上がったか、下がったか、それとも横ばいか。それらの数字をもとに、工夫や努力の方向性を客観的に判断できるわけです。
データ分析をもとにメニューやサービスを開発し、シェアを測定して改善をくり返す。そうすれば、提供する価値は確実に向上し、売り上げや客数を増やすことにもつながるのではないか。そう考え、シェアを算出する仕組みづくりに取り掛かりました。
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