コロナ禍でも「売上17%増」達成、カギは“数字”にあった――伊勢の食堂が貫くデータ経営とは?(2/2 ページ)
コロナ禍で多くの飲食店が打撃を受けた。そんな中でも、伊勢の食堂「ゑびや」は、売上17%増を達成したという。
市場開拓・商品開発の正否もデータで確認
「人流データ×シェア」による分析は、商品開発でも威力を発揮します。「若者に売れる商品」の開発に着手した私たちは、「SNSで映える商品なら若者にうけるのでは」と仮説を立てました。
そこで注目したのが「松阪牛寿司」です。これは三重県の特産品である松阪牛を手軽に楽しめる食べ歩き用の商品として、以前から提供していました。
しかし、食べるときに両手を使うため、年齢層が高いお客さまは煩わしさを感じたらしく、売れ行きがよくありませんでした。でも若い世代が多い原宿化した今のマーケットなら、売れる商品になる可能性があります。
若い世代にとって、映える写真を撮影できるかどうかが、旅行先や外食する店を選ぶ強い動機になります。よって写真映えするように商品の見た目をアレンジしたり、おしゃれに盛り付けた写真を店のSNSで発信したりすれば、若い人たちは「自分も松阪牛寿司を買って写真を撮りたい」と思ってくれるのではないか。このような仮説を立て、店前の屋台でテストすることにしました。 その結果、購入者の8割が20代になり、予想通り若い世代が圧倒的に多くなりました。また、従来の食べ歩き用商品のシェアは1.5%から2%程度だったのに対し、松阪牛寿司のシェアは3.6%と高い数字でした。
数字を根拠にすれば、“いちかばちか”で投資しなくなる
この高いシェアを見て、私は「新たな業態として松阪牛寿司の専門店を出せるのではないか」と考えました。
しかし、そのためには先行投資が必要です。どの程度の人・モノ・金・時間を投入すれば、回収できるか。人流データ、シェアをもとにすると、投資計画や回収計画を立てるのはさほど難しくありません。
粗利からメンバーの給与や光熱費などの諸経費を差し引けば利益を算出できるので、逆算すれば「この事業にいくら投資し、何年で回収できるか」を計画できます。
この計算により、大きめの投資をしても比較的短期間で回収できると判断。2022年に肉寿司専門店「ゑびや商人館」をオープンしました。
なお、同店の売り上げは順調に伸びていて、想定していた年間5000万円を上回る数字で推移しています。新店舗や新業態を出すのは、経営者にとって大きなチャレンジです。データをもとに想定される売り上げや客数を算出すれば、確度の高い投資計画や回収計画を立てられます。常に数字を根拠として判断することで、いちかばちかで勝負するのではなく、チャレンジの成功確率を高められるのです。
筆者プロフィール:小田島春樹(おだじまはるき)
三重県伊勢市にある妻の実家の老舗店を受け継ぎ、「ゑびや」代表に就任。AIなどを用いたデータ分析を取り入れ、経営改革に取り組む。
2018年、株式会社EBILAB(エビラボ)を立ち上げ、来客予測を主軸としたデータ分析システムのサービス開始。マイクロソフト「People who inspired us」にて事例が紹介されるなど、世界からも注目を浴びている。
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