「それって本当にカスハラ?」 ネスレの“ゲーム風”クレーム研修が面白い
「カスハラはダメ」という認識が広がる一方、企業に寄せられる厳しい意見、商品やサービスに対し怒っている顧客の声は、もちろん話し方や口調にもよるが、必ずしもカスハラとは限らない。ネスレ日本は、そんな課題を感じ、ユニークなクレーム研修を開発した。
「カスタマーハラスメント」(通称:カスハラ)の取り締まりが強化されている。大手飲食チェーンや小売業、自治体などを中心に、カスハラに対する方針を策定する企業が増加。「カスハラはダメ」という認識が広がっている。
その一方、企業に寄せられる厳しい意見、商品やサービスに対し怒っている顧客の声は、もちろん話し方や口調にもよるが、必ずしもカスハラとは限らない。熱量の高い問い合わせに対し過度に「カスハラだ」と対応してしまっては、顧客が発する言葉の裏にある、企業運営や商品、サービスの改善のヒントを見逃してしまう可能性もある。
「それって本当にカスハラなのか。なんでもカスハラと言ってしまう風潮に一石を投じたかった」──こう話すのは、ネスレ日本 コンシューマーエンゲージメントサービス部 トレーナーの卜部容子さん。ネスレ日本では、ゲーミフィケーション風のクレーム研修動画「ENGAGE QUEST」を開発し、顧客にカスハラをさせないための取り組みを強化している。
クレームの応対 オペレーターの99%が「自分にも課題があった」と後悔
ネスレ日本では「コンシューマーエンゲージメントサービス部」がコンタクトセンター運営、SNSやWebサイトなどのデジタル上の接点など、顧客との1対1のコミュニケーションに対応する。
現在コンタクトセンターには社内で66人の社員が在籍。加えてピーク時には約80人、オフシーズンには約50人のアウトソース(委託)が勤務する。
電話での問い合わせは年間24万件程度で、コーヒーメーカー関連の問い合わせが特に多いという。「使用方法、手入れのやり方が分からない」「正常に動作していない」といった内容が多い。
同社ではこれまでも応対品質の向上に取り組んできた。コロナ禍で対面研修が難しくなった際も、アバターを活用した研修を迅速に提供するなど、全拠点、全オペレーターで同じスキルを習得できるよう、学びの環境を提供している。
その一方で、コロナ禍で生活者の不安感やストレスが増し、クレームが増加するという課題もあったという。同社は「そういったクレームは全て、カスハラなのか」と考えた。
「クレーム対応の実情に対しオペレーターにヒアリングをしたところ、オペレーターの99%は、自分にも課題があり、うまく対応できていれば強めのクレームも回避できたかもしれないと感じていました。つまり、クレームの問い合わせに対し、『自分の応対に課題はなかった』とした人はたった1%。オペレーターの多くは、クレームを受けることよりも、『クレームをうまく収められなかったこと』に負担を感じていることが分かりました」(卜部さん)
卜部さんによると、クレーム客の多くは架電直後は怒っていないことがほとんどで、オペレーターと話す中での応対や言い回しを受け、気持ちが落ち込んだり、怒ってしまったりするケースが多いという。
「クレーム研修を受講したい」としたオペレーターは95%にも上った。一方で、従来のクレーム研修は、クレームの音源を何度も聞いたり、実際にクレーム対応の訓練を繰り返したり、オペレーターにとってはツライ時間になることが多かった。
「オペレーターはクレーム研修を受講したいと考えていましたが、研修自体が高ストレスであることが多く、参加するか悩むというケースが多かったんです。このニーズがはっきりしていたので、反復して受けられる、楽しい研修を作ろうと企画しました」(卜部さん)
「顧客にカスハラをさせない」訓練 ゲーム風研修の中身は?
「ENGAGE QUEST」の最大のポイントは、ゲーム風のストーリー展開でオペレーターが楽しみながらクレーム対応について学べる点だ。
登場人物は、勇者(オペレーター)と賢者(顧客)の2人。(1)商品を早く届けてほしい、(2)上席に電話を替われと言われた、(3)コーヒーマシーンの交換──3つのよくある問い合わせをストーリーとして用意。賢者に見立てた顧客が問い合わせをしてきたときにどういったことを考えているのか、強い口調になってしまった理由は何かを、ストーリーを通して学んでいく。
各ストーリーは「ショック編」(急に怒られる場合)、「リトルブルー編」(顧客のテンションがだんだん下がってしまった場合)、「エンゲージリード編」(顧客の気持ちを明るくする、共感表現を学ぶ)の3つの軸で構成した。
「オペレーターが顧客にカスハラをさせないために何かできるか、優しく、楽しくサポートする方法を学びます。顧客の言葉の裏側にある心の声を理解することが重要だと考えています」(卜部さん)
実際に研修を体験したオペレーターからは、「実際の応対に生かせそう」(100%)、「苦手意識が減った」(83%)、「楽しかった、また視聴したい」(90%)、「続編の研修に期待」(100%)と、好評の声が挙がった。
「カスハラから従業員を守るというのは企業として当たり前の考え方ですが、逆転の発想で、『それってカスハラでしたか?』という視点で研修にチャレンジしたのが良かったのかもしれません。とはいえ、『クレームは対策できれば回避できたと思う』という意見がなければこの研修は作っていなかったので、オペレーターが素晴らしかったですね」
現在の「ENGAGE QUEST」は、ストーリーが動画で流れる形式で、まだオペレーターが回答を選択する形式にできていないため、ゲーミフィケーション”風”としている。同社は今後、従業員のよりアクティブな行動を増やすために、研修コンテンツをアップデートする予定だ。
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