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「家事しない男性」が元凶……? 働く女性の邪魔をする「ステルス負担」はなぜ生まれるのか働き方の見取り図(3/3 ページ)

2025年は男女雇用機会均等法が制定されてから40年。その間の日本社会では何が変わり、何が変わっていないのか――。女性活躍をめぐる変化を整理しつつ、課題のポイントを確認する。

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仕事に家庭の仕事が上乗せ……厄介な「ステルス負担」

 ただ、未だ男性優位の社会であることには変わりありません。

 正社員比率をみても管理職比率をみても、上昇はしていますが女性は圧倒的に少ない状況です。最大のネックの一つは、徐々に薄れつつあるとはいえ、それでも未だ多くの家庭内で厳然と残り続けている性別役割分業でしょう。

 さらなる女性活躍推進のために「男性はもっと家のことをすべきだ!」と訴えるだけでは限界があります。ボトルネックになっているのは、以前書いた「夫婦で家事分担、かえって忙しくなるナゾ 増え続ける「ステルス負担」の正体」の中でも指摘した、目に見えづらいステルス負担の存在です。

ステルス負担とは?

 典型的な工数モデルで表すと、「専業主婦家庭」では、妻が「家庭工数」100を担い、「仕事工数」100を担う夫と合わせて総工数200で運営できました。

 しかし、「共働き家庭」では妻にも仕事工数がかかります。

 仮にパート勤務の仕事工数を50とすると、家庭工数の100と合わせて150。夫が変わらず仕事工数100を担えば合わせて総工数250となります。この増えた工数50が、目に見えないステルス負担です。家庭によっては50より多い場合も少ない場合もあるでしょう。

 多くの家庭ではステルス負担が全て妻だけにのしかかり、150の工数を担ってきました。少しずつ夫も家庭工数を負うようになってきたものの、まだまだ女性への偏りは顕著です。せめて夫が25の家庭工数を負ってくれれば、妻の家庭工数は75に減り、仕事工数50と合わせて125。夫は仕事工数100と家庭工数25で125なので、理屈上は同じになります。


多くの家庭ではステルス負担が全て妻だけにのしかかり、150の工数を担ってきた(筆者作成)

 ただ夫としては、日々の仕事工数100を担うだけでも精一杯です。そこに家庭工数が加わることに強い負担感を覚えます。すでに150の工数を担ってきている妻からすれば認められるはずありませんが、仕事工数が楽になったわけではない夫は、少しでも家庭工数を担えばキャパオーバーとなるだけに抵抗感は強くなります。

 ボトルネックは、ステルス負担の上乗せで、「総工数」が250に増えたことです。仕事工数100と家庭工数100で総工数が200のまま共働きしたのであれば、夫婦が仕事工数と家庭工数を50ずつ担えば事足りました。

 ところが、夫の収入だけでは家庭運営しづらくなったこともあり、妻が働く家庭が増え、多くの家庭で50のステルス負担が生じました。それを解消しない限り、総工数を夫婦半々にしても125ずつとなり100を超えます。共にキャパオーバーとなり、疲弊感は消えず、無理が生じます。さらに妻がフルタイムで働けば、仕事工数は100となり家庭の総工数が300に膨れ上がる可能性さえあります。

いまの男性の働き方は、これからの時代の標準ではない

 ステルス負担を一手に引き受けてきた女性は、すでに十分頑張ってきました。これからの社会は性別を問わず誰もが活躍できる方向へと進もうとしていますが、100の家庭工数を負ったままの女性に「さらに頑張れ」と言うのはあまりに酷です。一方、仕事工数100に少しずつ家庭工数を上乗せしてきている男性もキャパオーバーになっています。

 元凶であるステルス負担を排除するには、一汁三菜にこだわらないなど家周りに求めることを減らして家庭工数を削減する方法が1つ。生産性を引き上げて150に膨れ上がった仕事工数を100に戻すことが1つです。

 誰もが家庭と両立しながら働く時代は、すでに実践してきた女性たちこそ先駆者です。いまの男性の働き方は、これからの時代の標準ではありません。男性は100%仕事だけに費やすことができた時間の使い方を見直し、両立に取り組んできた女性たちから学ぶ必要があります。

 同じことは、職場全体に対しても言えます。これまで職場は、社員が100%仕事に時間を使える状態を前提に運営されてきました。しかし、性別を問わず誰もが仕事と家庭の両立に取り組む社会で成果を出すには、働き方の標準モデルを刷新しなければなりません。

 女性にさまざまな機会を与えるなどと、男社会の上から目線で女性活躍を推進しようとするのは誤りです。先に家庭と両立しながら働いてきた女性たちから男性が学び、協力して、働き方の新たな標準モデルを生み出す。それこそが、男女雇用機会均等法制定から40年を経て、これから目指すべき未来像なのではないでしょうか。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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