「インバウンド需要の終わり」を見据えて 東武ホテル社長が「SLと竹林」に注力したワケ:東武ホテルの戦略【後編】(1/2 ページ)
東武グループは、沿線の観光資源を生かした持続的なまちづくりと観光振興を目指し、これまでさまざまなプロジェクトを展開してきた。東武鉄道前専務を務めた東武ホテルマネジメントの三輪裕章社長に狙いを聞いた。
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東武グループは、沿線の観光資源を生かした持続的なまちづくりと観光振興を目指し、これまでさまざまなプロジェクトを展開してきた。2017年8月からは栃木県日光市の下今市駅〜鬼怒川温泉駅間でSL「大樹」号を運行している。SL運行や沿線イルミネーション、花畑整備などを通じ、地域住民や観光客の交流を促すのが狙いだ。日光・鬼怒川エリアの新たな観光名物として定着させてきた。
2022年11月からは東京都墨田区の牛嶋神社や隅田公園、すみだリバーウォーク周辺で「東京下町回遊〜竹あかり〜」プロジェクトを開始。竹林整備で生まれた竹を活用し、ライトアップやワークショップを実施することで、夜間の観光需要や地域経済の活性化を図ってきた。また、竹林整備の一環として、竹を使った国産メンマづくりも進めている。竹の有効活用と、持続可能な里山保全を両立させる活動は、全国的な注目も集めているという。
なぜ、東武グループではこうしたプロジェクトを展開してきているのか。東武鉄道前専務を務めた東武ホテルマネジメントの三輪裕章社長に聞いた。
51年ぶりのSL復活 竹資源活用の狙いは?
――東武グループが推進するSL大樹プロジェクトや竹あかりプロジェクトは、どのような経緯で始まったのでしょうか。
私が鉄道の将来を考えるプロジェクトを担当させてもらった際、若手社員を集めて次の時代の鉄道の在り方について議論を重ねました。その中で、特急列車の分割運転や浅草〜スカイツリー間の特急料金無料化など、さまざまな新しいアイデアを実現してきました。ですが、現場からは「これは無理だ」「実際にやるのは大変だ」といった声も多く、一番難しいとみられていたのがSLの復活運転でした。
SLの復活は、鉄道会社として最も難しいプロジェクトの一つでした。ですが、逆に「これができれば他のこともできる」という思いで進めることを促しました。私自身もSLが好きでしたし、実現に向けて最初に相談したのは、JR西日本の来島達夫副社長(当時)です。来島氏とは半世紀におよぶご縁があり、その信頼関係の元に、最初に「応援してあげるよ」と言ってもらえたことが大きな後押しになりました。
――どういったプロジェクトなのですか。
SL大樹プロジェクトは、単にSLを走らせるだけでなく、鉄道産業文化遺産の保存・活用や、日光・鬼怒川エリアを中心とした地域の観光活性化を目指すものです。実際、鬼怒川線沿線地域では、かつてSLが「汽車ポッポ」として親しまれていました。ですが、昭和41年に運行が終了して以降、半世紀以上SLが走ることはありませんでした。
SL復活運転の実現に当たっては、車両や部品の調達、乗務員や検修員の養成、保守設備の新設など、さまざまな課題がありました。車両はJR北海道からC11形207号機を借り受け、全国の鉄道事業者や保存団体の協力を得て、必要な技術や部品を集めました。また、SLの運行や保守には特別な技術が必要なため、JRや他の鉄道会社から知見を学び、社内で技術継承を進めてきました。
このような経緯を経て、2017年8月、東武鉄道として約51年ぶりにSL「大樹」の復活運転が実現しました。このプロジェクトは、地域の方々や関係事業者の協力なくしては成し得なかったものであり、今後も地域と一体となって、観光振興や地域活性化に貢献していきたいと考えています。
SL運行が生んだ地域連携と竹資源活用の広がり
――なぜ、三輪社長はSL運行にそこまでの情熱を注いだのでしょうか。
SL運行の際には、2次交通としての位置付けや東北復興支援の一助、そして鉄道の産業文化遺産の保存と活用という大きな目的がありました。その過程で、沿線の協力が不可欠でした。鬼怒川線の倉ケ崎という場所では、地元の方々が荒地を花壇にしてくれたことがきっかけで、地域とのつながりが生まれ、やがて沿線全体でイルミネーションを飾る取り組みに発展しました。
SLの運行区間は12.4キロで、その全区間にイルミネーションを施すことになり、特に新高徳駅は鬼怒川に降りられる唯一の駅で、河川敷にアクセスできます。しかし、その場所には放置竹林が広がっており、それを伐採してライトアップし、景観を美しくしようというのが始まりでした。きっかけはわれわれでしたが、地元の熱い情熱に感化された部分もあると思います。
――その取り組みは、いつ頃から始まったのですか。
2017年です。SLが走り始めたのも2017年で、その時に国産メンマサミットが竹林整備運用の一助として行われている話を聞きましたが、食品事業でありすぐに取り組むことはできませんでした。
実は国産メンマは 国内流通量の1%しかなく、99%が輸入品です。竹林整備をしていた際、佐賀県糸島市がその活動をしていることを知りました。九州は全国放置竹林の70%を占めており、保水力が低いため水害が起きやすい問題があるようです。杉やヒノキも保水力がなく、戦後に急峻な土地に植えられたことで水害が多発しているのです。雑木や竹材を植えることで保水力を高める必要があります。
糸島市で国産メンマの活動をしている人は銀行を退職した人で、竹林整備費を捻出するためにメンマに着目し、3〜4年かけて製法を確立しYouTubeで公開したことで全国に広がりました。私も以前からその活動を知っていたので、ホテルに着任してすぐ総料理長に国産メンマサミットに参加してもらい、主催者ともつながりを作ってもらいました。SLプロジェクトと並行してこの取り組みも進めたかったのですが、鉄道会社では食品を扱えないため断念していたものがようやく実現できることになったのです。また、間伐材を活用した竹あかりのプロジェクトへと発展しました。
――ずっと社長の中で課題意識があったわけですね。
はい、まさにそうです。例えば2024年11月にも栃木県日光市の新高徳駅に行って竹林を整備したのですが、竹林がきれいになると今度は近隣の方がタケノコを採りに来てしまうのです。もともと放置竹林で人が入れなかった場所が、整備されて入れるようになると、どうしてもそうなってしまいます。
2024年の春は、ほとんどタケノコが残らなかったので、日光の別の竹林からタケノコを採ってきて、それを使いました。委託するとコストがかかるので、私たち自身が現地に行って採ってくるようにしています。2024年11月には、タケノコを守るための柵も自分たちで設置しました。
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