「インバウンド需要の終わり」を見据えて 東武ホテル社長が「SLと竹林」に注力したワケ:東武ホテルの戦略【後編】(2/2 ページ)
東武グループは、沿線の観光資源を生かした持続的なまちづくりと観光振興を目指し、これまでさまざまなプロジェクトを展開してきた。東武鉄道前専務を務めた東武ホテルマネジメントの三輪裕章社長に狙いを聞いた。
非日常体験と地域還元を追求する経営戦略
――竹を活用した一連の施策をメディアで発表した意図はどのようなものなのでしょうか。
東武ホテルは大手のホテルチェーンではありません。その中で、今働いているスタッフとともに、どうやって生き残っていけるホテルをつくるかが大きな課題です。ですから、「東武ホテルならでは」「東武ホテルでなければ」と言えるものを作っていかなければならないと考えています。
その一つが「食」へのこだわりであり、非日常の体験の提供です。ただ、現実には収益の8割が宿泊に依存せざるを得ません。今はその構造が極限まで突き詰められている状況です。ですから、これから何をしていくべきかを常に考えています。
ホテルとしてリピーターに繰り返し利用していただくためには、ホテル自体の魅力だけでなく、訪れた先に何があるか、地域との連携も不可欠です。立地している地域に還元できないホテルは、いずれ廃れてしまうと思っています。
インバウンド需要が途絶えたとき、最終的に支えてくれるのは地元の方々です。例えば、もし海外からのお客さまが来なくなった場合でも、「じゃあ宴会をやろう」と地元の方が利用してくれる、そんな関係性が大切だと考えています。だからこそ、得た恩恵を地元に還元できる仕組みを作りたい。それがホテルの生き残りにつながると信じています。
また、グループ内にもさまざまな立地のホテルがありますが、これまではローコストオペレーションを徹底することに抵抗がありました。ホテルは立地ごとに個性を出すべきだと思っていましたが、それだけでは収益が上がりません。
今は、一定の部分でローコストオペレーションを徹底し、料金施策も徹底することで利益を生み出す体制が必要だと考えています。将来的には、沿線エリアごとにどんなホテルをどの規模で展開すればどれだけの利益が見込めるか、検費や土地の購入費も含めて自分たちで判断できる「オペレーター」としての力を持つ会社になりたい。それが今の私の夢です。
――それはホテル単位で経営のことを考えられるようになるということですね。
そうですね。そうした積み重ねの結果として、「ここならホテルをやれる」「この条件ならやめた方がいい」といった判断ができるようになるのが理想です。現状、鉄道側では、ホテル事業戦略部を設置し、最終的な決定はそこで下せる体制を組んでいます。
私たちホテル側はオペレーターの立場なので、資本政策については鉄道本体が決めており、われわれは現場として意見反映を行うことが仕事となっています。東武グループ全体を見た大所高所から見た判断となるため、われわれはその判断材料となる情報をいかに正確に適確に伝えていくかが業務と考えています。
各社の「知見と現場力」を生かす 東武グループの挑戦
――やはり東武グループといえども、各社がしっかり意見を言える体制が必要だと感じますか。
その通りです。グループシナジーという言葉がありますが、実際にそれを機能させるには、各社が現場の知見を生かして提案できることが不可欠です。例えば、私たちが今進めている冷凍食品のグループ内供給も、現場の課題から生まれた取り組みです。
2024年に、グループ内のホテルで急に調理師が退職し、団体予約の受け入れが難しくなったことがありました。その時、労務関係でつながりのあった支配人から助けを求められ、私たちの調理部から人員を派遣して何とか乗り切りました。調理人材の確保は特に地方やリゾート地では難しく、季節による繁閑差や厳しい環境もあって、なかなか人が集まりません。そこで、ローテーションで料理長を派遣したり、冷凍食品を供給したりして現地でホテルの品質を維持するなど、さまざまな工夫をすることが必要となっています。
冷凍食品についても、ただ電子レンジで温めるのではなく、湯煎で仕上げることでホテル品質を保つようにしています。冷凍のまま15分湯煎する方法と、事前に冷蔵庫で解凍して5分で仕上げる方法の両方を提案し、現場のニーズに応じて使い分けられるようにしています。
こうした取り組みを通じて、メイン料理として提供したり、小分けにして複数のメニューに組み込んだりなど、現場での柔軟な運用が可能になります。これが本来のグループシナジーだと考えており、今後も現場発のアイデアを積極的にグループ全体に広げていきたいと思っています。現場の声を経営に反映させることが、これからの東武グループの成長には欠かせないと考えています。
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