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【マシリト×いとうせいこう】が語る極上の編集者論 「今はちょうど端境期」マシリトが行く!(2/2 ページ)

鳥山明さんを発掘した漫画編集者の鳥嶋和彦さんが、作家・クリエイター、いとうせいこうさんとJ-WAVE(81.3FM)のラジオ番組『TOKYO M.A.A.D SPIN』(トーキョー マッドスピン)で対談した。2人が織りなす「極上の編集者論」をお届けする。

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デジタル時代 コンテンツの本質は変わる?

いとう: この本『ボツ』では「編集者という仕事が、どんなものか」ということが端々に、しかも具体例と共に書かれています。ただ、ここに書かれている内容は、雑誌がすごい勢いだった時代のノウハウじゃないですか。それこそ内田さんじゃないですけど、マルチメディアの時代になって「じゃあ、さらにどういうことが起きるのか」という展望については、どう思いますか? どこに編集者という仕事の需要が出てくるのか。例えば今は髪を切りに行くと、もう雑誌じゃなくてタブレットを手渡されますよね。そこに何十冊と雑誌の情報が入っている時代です。

鳥嶋: ずっと雑誌文化の中で、ライブでやってきた漫画の在り方が、紙じゃなくなったときに、どうなるのか。どこに行くのかっていう話ですよね。

 実はデジタルで変わったことは届け方の問題だけで、コンテンツとして何を見るかということはあまり変わっていないと思うんですよ。なぜかというと、出版のビジネスモデルは作家がいて出版社があって、印刷所があって、取次会社があって、書店があって、読者がいてという流れで届けられる仕組みですよね。その仕組みは、紙媒体に合理化されたものじゃないですか。でもデジタルになると、この印刷所から取次会社までの工程が、全て取っ払われてしまうんですよ。

いとう: (読者まで)ダイレクトになっちゃいますよね。

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デジタル時代 漫画の在り方はどうなるのか?(写真提供:ゲッティイメージズ)

鳥嶋: 出版社から書店まで、いや場合によっては出版社さえなくなる。届き方が早いんです。それから、さまざまなものがカットされて届く。だから、自分からどこかに探しに行く、取りに行くのではなくて、(消費者にとっては)向こうからやってくる。このコンテンツの届き方が違うだけで、見ているコンテンツそのものは変わっていないんですよ。

いとう: なるほど。

鳥嶋: いろいろなデジタル漫画を見ていると、これまで漫画と関係なかったIT系企業や、出版事業をやっていなかった企業も漫画業界に参入してきています。なぜなら流通の途中にある、印刷所や取次会社といった障壁がなくなったから。だから入ってきやすいんですよね。

 ところがそうすると、山ほどいろいろなコンテンツが出てきた一方、結果的に当たり前のところに戻るんですよね。このシステムができちゃうと「何を売っているか」「何を見るのか」という本質に戻るんです。するとやっぱり、ちゃんとした漫画を作品として作っているかどうか、作れているかどうかに戻る。だから本質は変わらないんですよ。

いとう: そうか。しかも一方では(個人制作の雑誌、書籍)「ZINE」(ジン)みたいなものを出す人たちがいますね。デジタルじゃなくても「書きたいことを書くんだ」という最初の原点に戻っている人たちが目立っています。一方で、タブレットの中に、雑誌が全部一緒に入っているデジタルメディアもある。

 僕は、理髪店でタブレットを見ているときに「久しぶりに雑誌に出会ったな」と思う感覚を覚えます。というのは、そのタブレット自体が雑誌だからです。つまり雑なんですよね。全然興味もないのに車の雑誌を見てみたり、女性の髪型の雑誌に飛んだりできる。「これ雑誌じゃないか!」っていうことですね。その情報の受け皿が変化しただけなんだと思ったんです。

 では、これからの雑誌の在り方は、どうなるんでしょう。雑誌DJじゃないですけど、次から次へと飛べるからこそ生まれてくるものって何なんだろう? と思うんです。そこをエディットする人、つまり編集者が出るとしたら、何をするのかなと思うんですよね。そして、スマホの縦型画面の行方にも興味があります。縦型を見る目の動きは、結局どうなるのかなと。疲れるのかなって。そんなことを勝手に心配しています。

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スマホの登場によって縦位置で漫画を読むようになった(写真提供:ゲッティイメージズ)

鳥嶋: 1点目のタブレット自体が雑誌じゃないかっていうのは、ネットが出始めたときにネットサーフィンという言葉があったじゃないですか。今はもう、そういうことは言わないですよね。なぜならリコメンドされてしまう。

いとう: ああ、サーフィンしなくても、波がこっちに来ちゃうから。

鳥嶋: AIが後ろにいて勝手に最適化されて、選ばされている状況ができて、それに気が付かない。だからそこがまず、まずい。2点目はスマホ最適化のものの見せ方ですね。スマホが出るまでは、雑誌の見開きも横位置ですよね。テレビのモニターも、映画も横位置です。これが縦位置になったんです。ここが決定的に違うんですよね。

 横位置の見開きでコマを割って展開すると、1コマ目を見ているときに、実は脳が全体を見ているんですよ。この誌面を追って見ているから、その中で自分の最適化によって、読むスピードが変わってくる。だから横の見開きのコマで見るというのは、ある意味、慣れると非常に自由なんです。ところが縦位置だと一画面しか、そして今しか見られない。この制限を、漫画の作り手側が、ちゃんと考えていない。だから(縦位置は)アクションが苦手なんですよね。

いとう: ああ、なるほど。動きのつながりが一番重要ですものね。

鳥嶋: だから縦位置は、アップの切り替えで見せるラブコメ的な漫画や会話劇みたいなものには、向いているんです。ところがアクションは苦手。あと色は付いてはいるものの、単に色が付いていればいいという考え方止まりで、どういう風に色を設計するかという考え方がまだ、作り手にはない。

 紙の漫画では手塚治虫が出てきて、コマ割りによって動きを見せていくという発明をしました。それで、日本の漫画が一気に変わりました。しかし、スマホの中の発明は、まだ出てきていないんですよね。

いとう: なるほど。いろいろな実験をしているものの、まだ画期的なアイデアが出てきていない状況なんですね。例えば(旧石器時代の)アルタミラ洞窟の壁画だって、横に見ているじゃないですか。人間の目が2つ顔の前にあるっていう状態からすると、横スクロールが一番なじみますよね。絵巻だってそうです。

鳥嶋: 目は縦に動かないですからね。

いとう: そうなんですよ。デジタルなものによって切れていく情報を、自分でつないでいくっていうことだと思うのですが、そこで出てくるダイナミズムには、もっと何かがあるんじゃないかと思いますよね。あまりに人類が未踏の地に行っているから。僕は、そう思っています。

鳥嶋: だから今ちょうど、端境期(はざかいき)だと思うんですよね。いとうさんがおっしゃったように、もう1回、見るとか聞くとかいうのが、どういうことなのか。何が気持ちいいのか、何が楽しいのか。その辺りを考えてやらないといけないですよね。

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