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「アシスタント→漫画家」は時代遅れ? 生成AIは漫画業界で働く“人”の役割をどう変えるのかグロービス経営大学院 TechMaRI 解説(2/2 ページ)

かつて斜陽産業とも呼ばれた漫画は現在、デジタル化で再成長を遂げている。その背景に、生成AIの存在がある。生成AIの登場で、アシスタントや漫画家の仕事はなくなってしまうのだろうか……?

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ゼロからヒット作を生む発想力は人間に依存する

 実際に画像生成AI(Midjourney)で描かれた漫画も出版されている。続々とAIツールが登場する一方で、漫画へのAI活用は賛否両論だ。AIの生成した画像やプロットの著作権の所在が不明確といった法的な課題だけでなく、心理的抵抗のある漫画家や読者も少なくない。紙からデジタルへの変化でも起きた現象であり、漫画はデジタル化に続く変革の過渡期にある。

 変革の過渡期において、クリエイターやアーティストのテクノロジー活用に対する批判は各所で繰り返されてきた。かつてワープロを初めて使った小説家は「文章に魂がこもらない」と言われ、合成音声のボーカロイドは歌声に人間味がないと批判された。創作活動に機械が入ることへの心理的な抵抗は生成AIに始まったことではない


写真はイメージ、ゲッティイメージズより

 ところで、漫画家が不要になるかというと、作画の作業はAIで完結できるかもしれないが、AIで「完全自動化された漫画」はまだ現実的ではない

 特にストーリー部分だ。良くも悪くもAIの標準アウトプットは中立的だ。AIだけの常識に寄り添いすぎる内容ではインパクトに欠く。AIはあくまで支援ツールであり、少なくとも現時点では、AIだけでストーリー作りを完結することは難しい。

 また、制作プロセスの肝であるネーム作成(原稿作業に入る前にコマ割り、セリフ、構図などを大まかに配置した設計図をつくる作業)において「AIはほぼ役に立たない」と小沢高広氏(漫画家/日本漫画家協会 常務理事)は2024年春のRIETI(独立行政法人経済産業研究所)の講演で述べている。ゼロからヒット作を生む発想力は人間に依存する。読者を夢中にする独自のストーリー構築には人間の創造性が不可欠だ。

供給が増える漫画 編集者に求められる「審美眼」

 現在はAI漫画ツールの黎明期だ。使えるようになったと思えば新しいツールが出てくる。自分の描きたい表現をもっと自由にできる可能性を信じて、漫画を描きながら新しいテクノロジーを自分のものにしていく必要がある。

 次々にリリースされる便利な制作ツールや、出版せずとも流通可能な配信プラットフォームの存在により、今後も漫画の供給は増えるだろう。一方で読者の可処分時間は限られている。供給が増えると玉石混交のコンテンツが溢れ、読者が取捨選択しきれなくなる。音楽や動画でも起きている現象で、キュレーションの質が重要だ。

 キュレーションとは、膨大な情報から特定の視点で収集・整理し、再構成することで付加価値を出すことを言う。メディアやマーケティングでもよく使われるが、もともとは美術館の学芸員や展示を企画・構成する「キュレーター」(curator)の仕事に由来する。時代の流れをくんだセンス(審美眼)が問われる。

 AIは、膨大な量の漫画から類似作品や閲覧履歴と相関の高い作品を見つけ出し、レコメンドするのに長けている。

 ただ、類似レコメンドだけでは読者は飽きてしまう。たくさんの漫画に向き合い続けた人間の編集者による、感性のレコメンドは閲覧履歴の延長線上にない仕掛けになるだろう。良作を埋もれさせないためにも、作品の選別者として、これまで以上に編集者の役割が研ぎ澄まされていくと考える。

中村香央里 グロービス経営大学院 テクノベート経営研究所 副主任研究員

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グロービス経営大学院の産業創生・人材育成を研究する機関であるテクノベート経営研究所副主任研究員。

三井住友銀行投資銀行部門を経て、SMBC日興証券で日本経済エコノミストとして国内外の機関投資家(債券市場・株式市場)向けにレポート執筆。ユーザベースに入社後は、SPEEDAアナリストとして調査・分析・執筆、新規コンテンツ開発の立ち上げに従事。

また、経済メディアNewsPicksの編集部で記者・編集者として情報発信。2023年より現職。東京大学経済学部卒。


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