数字の奥にいる「人」を見る──顧客理解を深めるためのデータ活用のポイントは?:“掛け算”で強くする会社経営(2/2 ページ)
データは顧客ニーズを正確にとらえるための羅針盤となる。無機質な数字の羅列でしかないデータから、いかにして顧客のニーズやインサイト、つまり「顧客の物語」を読み解いていけるか、考えていこう。
【事例】スマホゲーム、データ解析で総課金額が「300%増」
事例を1つご紹介します。スマホアプリゲームのグロース業務で、データ解析によって既存顧客の課金額を増加させることに成功したケースです。
単純集計では見えなかった課金額増加につながる要因を、構造方程式モデリング(潜在変数を含む、複雑な因果関係を同時に分析・検証するための統計モデリング手法)によって炙り出しました。
具体的には、単純集計では「世界観」というスコアは高くなかったものの、解析によって「課金額」への影響度が高いということが判明。当該ゲームはIPベースのゲームであるため、IPの世界観を強く打ち出すというクリエイティブ戦略を構築し、次期のキャンペーンで世界観を軸としたクリエイティブを実装しました。結果、クリエイティブ展開期間中の総課金額が約300%増という大きな成果につながりました。
本件ではユーザーの「IPの世界観を愛しており、ゲームでもその世界に没入したい」という顧客インサイトを発見することで、サービスのグロースを実現させました。データ解析によって表面上では見えなかった課題が浮き上がることで、真因の特定が可能となり、CX改善が成功した事例といえるでしょう。
データ解析の自動化と高速化:Google Colaboratoryの活用
現代ビジネスにおいて、意思決定の精度を高めるためには、膨大なデータを深く理解することが不可欠です。私たちは、統合された多様なデータから、統計解析や多変量解析といった高度な分析手法を駆使し、単なる数字の羅列に隠された本質的な意味やパターンを解き明かします。さらに、データ間の複雑な因果関係までをも炙り出すことで、より精度の高い予測と戦略立案を可能にします。
この高度なデータ解析を支えるのが、解析エンジン「Google Colaboratory」です。Googleが提供するクラウドベースのPython実行環境であり、Webブラウザ上で直接Pythonコードを実行できます。
Google Colaboratoryにおける演算処理は、GPU(Graphics Processing Unit)を使えることもあり、機械学習やディープラーニングといった計算負荷の高い処理の飛躍的な高速化を図れます。これにより大量のデータを用いた高精度なモデル学習や複雑な分析を、圧倒的な速度で解析。私たちが独自に開発・蓄積してきた数百に及ぶ自動化コードのアセットを活用することで、これまで数日かかっていたデータ解析プロセスを劇的に短縮し、迅速な意思決定を支援します。
データは「最高指導者」、クリエイティビティは「愛」
データは、私たちが進むべき道を示す、冷徹で客観的な「最高指導者」です。そこから導かれるのは、最も合理的な戦略。しかし、どんなに正しい指示であっても、それだけでは人の心は動きません。ここで不可欠となるのが、「愛」、すなわちクリエイティビティです。
クリエイティビティは、最高指導者の無機質な指示を、人の心に響く物語や温かい体験へと翻訳します。 顧客の感情に深く寄り添い、共感の光を当て、無味乾燥なファクトを心に刻まれる記憶へと昇華させるのです。
合理的で厳格な指導と、感情を動かす愛情──この二つが両輪となり、密接に連携して初めて、戦略は人の心を捉える真の力を持ち、ビジネスは力強く前進できると信じています。
「データ活用×CX」の旅は、終わりなき探求です。テクノロジーは進化し、生活者の価値観も絶えず変化し続けます。だからこそ重要なのは、データというツールにただ従うのではなく、その向こう側に存在する生身の「人間」を、常に深く見つめ続けることだと考えます。
次回第4回では、「商品開発×CX」をテーマに、今の顧客だけでなく“未来”の顧客ニーズまでをも踏まえた商品開発のメソッドについてお話しします。どうぞご期待ください。
東晃弘(あずまあきひろ)
株式会社博報堂 クリエイティブ局 クリエイティブディレクター/データサイエンティスト
「データ解析 ✕ コミュニケーション戦略構築・実装」によって、企業・ブランドのグロースを、確度高く実現させる。Googleプロダクト群を基盤としたマーケティングソリューション「博報堂グロースダッシュボード」の開発・運用を推進。「この宇宙のすべての事象と人間の心は、誰かが書いた数式、誰かが考えたアルゴリズムに基づいて動いている」と考えている。
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