数字の奥にいる「人」を見る──顧客理解を深めるためのデータ活用のポイントは?:“掛け算”で強くする会社経営(1/2 ページ)
データは顧客ニーズを正確にとらえるための羅針盤となる。無機質な数字の羅列でしかないデータから、いかにして顧客のニーズやインサイト、つまり「顧客の物語」を読み解いていけるか、考えていこう。
東晃弘(あずまあきひろ)
株式会社博報堂 クリエイティブ局 クリエイティブディレクター/データサイエンティスト
「データ解析 ✕ コミュニケーション戦略構築・実装」によって、企業・ブランドのグロースを、確度高く実現させる。
生活者価値起点の顧客体験をデザインする博報堂のクリエイティブチーム「HAKUHODO CX FORCE」がお届けする本連載。第3回テーマは「データ活用×CX」。
数字の羅列でしかないデータから、いかに顧客のニーズやインサイトを発見するか──データサイエンティストの腕の見せ所です。顧客の動きをデータで把握し、それをもとに顧客体験のアップデートを行うサイクルをどのように作っていくべきか、詳しく解説します。
現代市場では生活者の価値観がモノ(製品)からコト(体験)、さらにはトキ(感情的なつながり)へとシフトしています。この時代に企業が顧客から選ばれ続けるには、製品の機能的価値だけでは不十分であり、あらゆる顧客接点における「顧客体験」(CX:Customer Experience)の質を高めることが企業の生死を分けるといっても過言ではありません。
この移ろいやすい顧客ニーズを正確にとらえるための羅針盤こそが「データ」です。
本稿では、一見すると無機質な数字の羅列でしかないデータから、いかにして顧客のニーズやインサイト、つまり「顧客の物語」を読み解くか。そして、その物語に基づいて顧客体験をアップデートし続けるサイクルをいかに構築していくべきかについて、私たちが実践する「生活者発想」と「クリエイティビティ」を掛け合わせたアプローチを交えながら解説します。
データは万能薬ではなく、「解像度の高いレンズ」だ
データを活用したCX改善において、私たちは「データドリブンCX」という考え方を提唱しています。
「データドリブンCX」とは、単にデータを集めて分析することではありません。それは、「問い→データ解析→インサイト抽出→戦略策定→施策実行→効果検証」という一連のサイクルを、テクノロジーの力で高速回転させ、再現性高く顧客理解と体験価値向上を実現するための方法です。
ここで重要なのは、私たちが決して「データ至上主義の帝国」から来たわけではない、ということ。データは万能の魔法ではなく、あくまで顧客という人間を理解するための「解像度の高いレンズ」に他なりません。
このサイクルを回すことで、これまで勘や経験則に頼らざるを得なかったマーケティング活動の多くが、客観的な根拠に基づいて行えるようになります。表面的な観察だけでは見えなかった顧客の隠れた不満や、本人すら言語化できていなかった潜在的な欲求(インサイト)が、データという光を当てることで鮮やかに浮かび上がる。この発見こそが、競合との差別化を生み、企業やサービスの飛躍的な成長を促す原動力となるのです。
顧客理解の鍵は「厚いデータ」を作ること
顧客理解の鍵は、性質の異なるデータを重ねる「厚いデータ」の構築にあります。
複数の性質の異なるデータを掛け合わせることで、顧客理解の解像度を極限まで高めた“厚いデータ”を作ることが重要です。以下の3つのデータ次元を組み合わせることで、データはより精度を増すでしょう。
(1)顧客データ(WHAT):「結果」の証明
誰が何を購入したかという客観的な事実データ。ビジネスの土台を把握できるが、行動の背景にある「なぜ」までは分からない。
(2)アクチュアルデータ(HOW):「過程」の可視化
購入に至るまでに、どんな広告を見てどうサイトを回遊したかといった「足跡」をたどるデータ。顧客の興味や検討のプロセスを明らかにする。
(3)意識データ(WHY):「心理」の解明
アンケートなどを通じて、顧客の満足度やロイヤリティー、つまり行動の根本にある「なぜ」を探るデータ。隠れた不満や期待をとらえる。
これらの「顧客データ(結果)」「アクチュアルデータ(過程)」「意識データ(心理)」は、それぞれが単独でも価値を持ちますが、その真価は掛け合わせた時にこそ発揮されます。
一例を挙げると、「購買額は非常に高い(顧客データ)が、意識調査でのロイヤリティー評価は低い(意識データ)」という顧客がいたとします。結果だけを見れば彼は「優良顧客」ですが、心理までを重ね合わせると、「サービスに不満を抱えながらも、他に選択肢がないために利用しているだけの『離反リスクを抱えた優良顧客』」という、全く異なる立体的な顧客像が浮かび上がります。
このインサイトがあれば、彼にさらなる販促をかけるのではなく、まずサービスの不満点を解消する、という的確な一手も考えられます。
このように、複数のデータ次元を組み合わせることで、私たちは初めて顧客のリアルな物語を読み解き、心に響く体験を提供することができるのです。
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