全員が「一律週40時間」働く必要ある? “短時間正社員”が問い直す、職場の常識:働き方の見取り図(3/3 ページ)
2025年の骨太方針に明記された「短時間正社員」制度。ただ、フルタイムで働いている正社員からは「不平等」という声も。短時間正社員という制度の意義を掘り下げてみると、従来の働き方の常識に風穴を開け、社会に還元されるメリットが見えてくる。
短時間正社員が職場にもたらす3つのメリット
職場側からすると個別最適型労働は管理するのが手間に感じるかもしれませんが、思い切って転換することで、職場には人事戦略的メリットが少なくとも3つ生じます。
まず1つ目は、採用におけるメリットです。
優れた能力を持っていながら、短時間しか働けないという理由でこれまで正社員になれなかった人を新たに戦力化できる可能性が高まります。主婦を中心とするパート層やシニア層に該当者が多いかもしれません。
また、複数の仕事を掛け持ちして能力発揮したい副業・兼業志向の人材も採用しやすくなります。適宜時間配分しながら社長として複数の会社経営に携わって成果を出している人がいるように、個別最適な環境を整えることによって短時間勤務で複数の仕事をかけ持ちしても十分な成果を出せる優秀な人材は確実に存在します。
次に、生産性の向上です。
正社員として週40時間に満たない勤務時間で働くには、相応の成果を出すことが求められます。裏返せば、短時間正社員が活躍できる職場にするには、働いた時間の長さではなく成果で評価する必要があるということです。必然的に、長時間ダラダラ勤務してムダな残業代が発生するような非効率な働き方は、職場から排除されていくことになります。
最後は、組織の多様性を高めるメリットです。
短時間正社員という制度が浸透すれば、副業層、主婦層やシニア層など、これまで適した働き方を見つけるのが難しくキャリアを生かしきれていなかった可能性のある人材層も組織の戦力として取り込みやすくなります。結果、人材層が多様になって、より広い視野を持つ強固なチームが構築されることが期待できます。
一律適用型労働に固執した職場が短時間正社員を導入して得られるのは、基本的に育児支援などの福利厚生的メリットです。3つの人事戦略的メリットを享受すべく短時間正社員を導入しようとしても、フルタイムで働く正社員たちが不平等に感じる懸念があります。
しかし、誰もが異なる就業条件であることを当然とする視点に立ち、個別最適型労働の考え方にシフトすれば、福利厚生的短時間正社員も戦略的短時間正社員も導入可能です。すでに採用難の厳しさを強く感じている中小企業を中心に、個別最適型労働へとシフトを図り、戦略的短時間正社員を戦力化しようとする動きは徐々に見られつつあります。
世の職場の常識が一律適用型労働から個別最適型労働へシフトし、戦略的短時間正社員の導入が珍しくなくなれば、正社員=フルタイムという共通認識は成立しなくなります。わざわざ“短時間”正社員などと冠言葉をつける必要もなくなるはずです。そんな職場の常識がひっくり返った状態を働き方改革のゴールだと捉えれば、骨太方針に短時間正社員と明記されたことには、大きな意義があると言えるのではないでしょうか。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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