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賃上げが進まない一因? “とりあえずパートで穴埋め”の企業が、今後直面する困難とは働き方の見取り図(1/2 ページ)

政府は、経済成長に向けた重点施策を取りまとめる「新しい資本主義実現会議」において、2029 年度までの5年間で実質賃金1%程度の上昇を定着させる方針を打ち出した。にもかかわらず、なぜいまのところ賃金は思うように上がっていないのか。

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 最低賃金を1500円に引き上げることを目指す交渉が、全国各地で本格的に始まりました。ここ数年、最低賃金はこれまでにないペースで引き上げが進んでいます。2024年はついに、全国平均額で1000円を超える水準に到達しました。

 今年の春闘では賃上げ水準が2年連続5%を超え、初任給は30万円時代到来と言われるなど、給与全体としては上昇傾向にあることがうかがえます。しかし、物価が賃上げを超えるペースで上昇し、生活実感としてはむしろ家計の苦しさを訴える声が多く聞かれます。

 一方、労働市場は慢性的な人手不足に陥っています。

 毎年出生数が少なくなり人口減少が加速していく中で、賃金水準で見劣りする会社ほど人手不足感や採用難の傾向がさらに強まっていくと予想されます。生活向上においても人材確保においても、賃上げは重要な鍵です。

 政府は、経済成長に向けた重点施策を取りまとめる「新しい資本主義実現会議」において、2029 年度までの5年間で実質賃金1%程度の上昇を定着させる方針を打ち出しました。経団連は賃上げを社会的責務と位置付けています。

 にもかかわらず、なぜいまのところ賃金は思うように上がっていないのでしょうか。


賃上げが思うように進まないのはなぜなのか。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫

愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。

所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。

NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。


いまは“及び腰賃上げ”──物価上昇を上回る勢いが出ない理由

 厚生労働省が発表している毎月勤労統計調査を確認すると、現金給与の伸びから消費者物価の伸びを引いた実質賃金の指数は、2022年以降前年比マイナス基調となっています。

 2025年に入ってからも前年同月比でマイナスが続いており、直近5月も消費者物価指数(総合)との比較で-2.0%です。

 現金給与は2021年以降4年連続で上昇し、2025年に入ってからも上昇幅は+1.0〜2.7%。それに対し、消費者物価指数(総合)はずっと+3%を超える水準で推移しています。賃金の増加幅を物価の増加幅が上回っていることで、実質賃金はマイナスが続いています。

 ただ、生活する人々が支出した金額は、商品やサービスを提供している会社にとっての売上額に相当します。消費者物価指数が上がり支出が増えるということはその分、会社の売り上げや利益は伸びていそうです。にもかかわらず賃上げに還元される動きが十分でないのは、内部留保としてため込んでいるなど、会社が出し渋っているからのようにも見えます。

 実際、会社の内部留保や現預金額が増加していることを示すデータもあります。しかし、時代の移り変わりは早く市場環境の未来予測がしづらくなっているだけに、想定外の事態に備えて財務体力を保持しておく必要性も高まっている面があります。

 中には出し渋りしているようなケースもあるのかもしれませんが、新しいテクノロジーへの投資や合意した日米関税の影響など、先が見通しづらい要素は枚挙に暇がないだけに、増えた利益を賃上げに全振りしてしまうのはリスキーでしょう。

 とはいえ、人手不足感や採用難が慢性化している状況を踏まえると、ある程度は賃上げに振り向けないと事業運営に必要な戦力を確保できません。会社側には、上げられるならもっと上げたい、という思いもあるはずです。

 いまの賃上げは、そんなジレンマを抱えながら、おそるおそる絞り出すように精いっぱいのラインにまで引き上げる“及び腰賃上げ”だと言えます。物価上昇を上回るほどの勢いは出づらい状況です。

増加する勤労者世帯の実収入

 ところが、総務省が公表している家計調査の内容は少し様相が異なります。

 勤労者世帯の実収入の平均は2002年に月額48万8115円。それが2024年に54万2886円と増加しました。

 一方、実支出の方は2002年が37万4533円、2024年は37万1857円と、ほとんど横ばいです。実収入から実支出を引いて計算した黒字幅は、2002年が11万3582円であるのに対し、2024年は17万1029円と増加しています。

 もちろん、この数値だけを見て「実は家計にはゆとりがある」などと結論づけられるわけではありません。平均値より中央値で比較した方が実態に即しているかもしれませんし、支出が横ばいになっているのは、物価高騰の中、苦しみながら家計を切り詰めてなんとかやりくりした結果かもしれません。

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