DX最大の壁は「過去の成功」──花王が“必勝パターン”をあえて捨て、大ヒット商品を生み出せたワケ(5/5 ページ)
時には過去の成功体験を捨て、思い切って新しい手法を試さなければならない。こうした学びを与えてくれるのは、経済産業省と東京証券取引所が「DX注目企業2025」に選定した花王の事例である。同社の常務執行役員で、デジタル戦略部門を統括する村上由泰氏に話を聞いた。
全社・グローバル規模で展開する新しいフェーズへ
――DX推進の今後の展望をお聞かせください。
当社のDXは、個別のプロジェクトで成果を出す段階から、その成功を全社・グローバル規模で展開し、持続的な成長エンジンへと進化させる新たなフェーズに入りました。中期経営計画「K27」が掲げる「グローバル・シャープトップ」企業への変革を加速させるため、私たちは現在、4つの取り組みに注力しています。
1つ目がデータドリブン経営の推進です。全社に散在するデータを統合・活用する基盤「Kao i-Lake」を中核に、データドリブン経営をさらに高度化することを目指しています 。部門ごとにとどまりがちだったデータを全社で共有し、AIなどの最新技術と組み合わせることで、勘や経験だけに頼るのではなく、全ての従業員がデータに基づいた質の高い意思決定を迅速に行える体制をグローバルレベルで構築します。
2つ目がオペレーショナル・エクセレンスの推進です。研究開発から生産、サプライチェーンに至るまで、それぞれのプロセスにおいて、AIを活用した効率化と高度化を進めます。研究開発では、マテリアルズインフォマティクスなどによる開発スピードの向上、SCMにおいてはAI需要予測などによるS&OP(Sales and Operations Planning)を進め、サプライチェーンの最適化を進めます。また、企画から法規チェックなどをデジタルで一貫管理するAIエージェントを活用し、安全性と生産性を両立します 。
3つ目が顧客体験価値の向上です。双方向デジタルプラットフォーム「My Kao」をハブとして、生活者と直接的かつ継続的な対話を行い、ファンづくりを強化します。
4つ目が実証された成功モデルを、最速でグローバル市場に展開する仕組みの構築です。meltで成果を上げたスクラム型運営やリーンスタートアップ型のマーケティング手法を、海外事業の変革にも応用します。また、基幹ブランドである「Curel」のグローバル展開をDXで加速させるなど、特定の成功体験を全社で再現可能な「型」へと昇華させ、世界中の市場で勝ち抜くための基盤を確立します。
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