DX最大の壁は「過去の成功」──花王が“必勝パターン”をあえて捨て、大ヒット商品を生み出せたワケ(4/5 ページ)
時には過去の成功体験を捨て、思い切って新しい手法を試さなければならない。こうした学びを与えてくれるのは、経済産業省と東京証券取引所が「DX注目企業2025」に選定した花王の事例である。同社の常務執行役員で、デジタル戦略部門を統括する村上由泰氏に話を聞いた。
「再現性のあるマーケティングモデル」を確立
――「melt」「THE ANSWER」のヒットから、ヘアケア事業の他の商品や他事業で展開できる発見はありましたか。
最大の発見は、デジタル時代における「再現性のあるマーケティングモデル」を確立できたという点です。特定のブランドにとどまらず、全社的に展開可能なマーケティングモデルだと考えています。
再現性のあるマーケティングモデルは、主に3つの要素で構成されています。第1に、「デジタルネイティブ世代との共創」です。SNSなどを通じて生活者と直接的かつ継続的に対話し、彼らのリアルな声を製品開発やコミュニケーションにリアルタイムで反映させる手法を取り入れました。もはや従来型の市場調査ではなく、新しい形の研究開発です。
第2に「リーンスタートアップ型のマーケティングモデル」です。大規模な初期投資に頼るのではなく、少額のデジタル広告で複数の仮説を試し、日々得られるデータに基づいてアプローチを最適化していく。これにより、リスクを最小限に抑えながら、投資対効果を最大化できました。
第3に、実行部隊である「スクラムチームの力」です。部門の垣根を越えた小さなチームが、大きな裁量を持ってスピーディーに動くことで、従来の縦割り組織では成し得なかったスピードと市場への適合性を実現できることを証明しました。
私たちは現在、この「再現性のあるマーケティングモデル」を全社的な「型」へと昇華させ、展開を進めています。ヘアケア事業の他ブランドはもちろん、スキンケアなどの他事業、さらには今後の重要な成長戦略であるグローバル展開においても、このモデルを応用しています。例えば、基幹ブランド「Curel」のグローバル展開を加速させるプロジェクトでも、このアジャイルで生活者中心のアプローチが導入されています。
――経営層だけでなく、現場を巻き込み「部署横断で」デジタル化を成功させるために必要なことは何でしょうか。
全社的なDXの成功には、経営層によるトップダウンの明確なビジョン提示と、従業員一人一人が変革の担い手となるボトムアップの活動を両輪で回すことが不可欠です。当社では、その鍵を「社員活力の最大化」と位置付け 、全従業員を対象とした大規模なDX人財育成プログラム「DXアドベンチャープログラム」を導入しています。
このプログラムの根底には、画一的な教育ではなく、意欲ある人財に集中的に投資するという「平等から公平へ」という考え方があります。まず全従業員がDXスキル診断で自身の現在地を把握し、レベルに合った学習コンテンツで基礎を学びます。これにより、社内にDXの「共通言語」が生まれ、部門を越えた円滑な連携の土台が築かれます。その上で、より専門的なスキル習得を目指す従業員には、部門のニーズに合わせてカスタマイズされた学びの場を提供し、変革をリードする多様な人財を計画的に育成しています。
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