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「志はある。でも……」 自治体職員の意欲が育たないのはなぜ? デジタル化以前に取り組むべきこと(2/3 ページ)

人手不足、待遇格差、報われにくさ……。それでもなお「社会を変えられる仕事」と信じて行政の職に就く人たちは、日々どんな現実と向き合い、どうやってモチベーションを維持しているのか。

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「給与=我慢代」という考え方の落とし穴

 では、自治体職員として充実していない場合はどうなのでしょうか。

 実際、筆者の周りでも公務員を辞めて民間企業に転職する方が増えています。さらに生々しい話をすれば「この方は職務専念義務違反という面で、もはやアウトなのではないだろうか」という方もいらっしゃいます。

 そこまでの話ではなくても「自分の仕事はお金をもらうための我慢代」と割り切っている方もあちこちで見かけます。

 その方の中では、「自分に強いられる我慢」と「給料」は等価交換でなければ正当な取引ではないので、自身が感じる給与の正当性のレベルまで仕事の関与度合いを低くすることになります。


写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 筆者自身、これはある種の真理だと思います。見方を変えると、労働対価が全てこのような考えの下で成立しているのならば、みんなが嫌がるような仕事は、それを引き受けたくなる程度まで労働対価が高くなる(給与が上がる)のが自然とも言えます。

 しかしながら、現実にはそうなっていませんし、公務員が引き受ける仕事は、この「みんなが嫌がるような仕事」が含まれているのも事実です。

 最近あまり耳にしませんが「同一労働同一賃金」というのは、この考え方に基づいているのではなかったですか?

 加えて言えば、公務員の場合は勤続年数と昇給カーブ、さらには職員個人のライフステージがうまく整合していないのかもしれません。

 もし、人事異動ローテーションにより望まない部署に配属され、組織内ヒエラルキーで人気のない仕事が若手職員に偏るのであれば、このバランスがさらに崩れてしまってもおかしくありませんし、それが長期的に積み重なるようであれば、モラルハザードが生じてくる可能性すらあります(転職できる年齢ならば、その前に退職するのだと思います)。

“デジタル化以前”の課題:職員の意欲が育たない

 論理がかなり飛躍しますが、筆者自身の経験でも自治体のデジタル変革という議論の前に、職員の就業に対するモチベーションが高くないことで、悩まされることが時々ありました。自分の仕事が「我慢」だと思っている方には、業務効率化は関係ないですし、デジタル技術の活用に対しても、その学習コストですらムダだと感じるのかもしれません。

 もしそうならば、デジタル変革や人材育成の前に、自治体職員の就業に対するモチベーション維持の方法を考える必要があるのだと思います。給与を上げるというのは、最も直接的な対策ですが、財源の制約もあり簡単にはできません。

 では、それ以外の方法でモチベーションを維持させることを考えてみましょう。

 まずは、前述したモチベーションの高い職員の話から「公務員でなければできない仕事が目の前にあることを実感してもらう」という方法。

 加えて言えば、その種の仕事は常に成功するわけではない(失敗もある)ことを認識してもらい、仮に成功できなかった場合でも職員個人に結果責任を負わせることはなく、組織全体の学びとして受け止めるという姿勢が求められるでしょう。

 公務員は大きなゆりかごの中で安心してチャレンジできる環境にあり、その規模は個人で取り組むよりも大きいのです。

 そしてその成果はきちんと職員個人にもフィードバックできる環境を作るべきでしょう。金銭的なボーナスではなく、単純に「できたね」「喜んでもらえたね」を知る機会を与えることが必要です。

 また、デジタル化は「嫌な仕事を肩代わりするための手段」であることを知ってもらう必要があります。

 我慢を取り除くことで、等価交換する給与に納得感を持ってもらいやすくすることも大切です。そしてこれは、筆者側(高度専門人材)の役目ですが、デジタル化の議論の中で職員が我慢していることを丁寧に酌(く)み取らないと、職員からの信頼は得られないと肝に命ずるべきですね。

 我慢が取り除かれたことで、相対的にやりがいのある仕事、楽しい仕事が増えてくるようにしたいのですが、そのような仕事こそ、デジタル化を後回しにして、職員に担ってもらえばよいのではないかと考えています。仕事ではなく、形を変えた報酬ならば、デジタル化でそれを取り上げてしまうのは逆効果かもしれませんから。

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