「年収1000万円店長」誕生へ すかいらーくの徹底した「店舗中心経営」が生み出す好循環(1/2 ページ)
すかいらーくは「店舗中心経営」を掲げ、人的資本経営を推進している。
「人件費=抑えるべきコスト」とする見方から、「人=利益の源泉」とする考え方へ。すかいらーくは、従業員満足を起点とした好循環を生み出すべく、大胆な方針転換に踏み切った。そのための戦略として2年前に掲げたのが「店舗中心経営」だ。これまでの成果と今後の展開について取材した。
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年収「1000万円店長」誕生へ コスト意識の転換
すかいらーくホールディングス(HD)はこの春、「ガスト」や「バーミヤン」などの店長が年収1000万円超を目指せる人事制度を導入した。従来の店長の年収の上限は840万円で、さらなる年収アップを求めるなら営業部長など本部の管理職を目指すしかなかった。今後は店舗経営のエキスパートとして店長職を極めていく道が開かれたのだ。
背景には、2023年度からの「店舗中心経営」がある。本部主導で現場のコストを最小化して利益を最大化するという考え方から、現場の店長主導で、各店舗がそれぞれに生産性や競争力を高めていくという考え方へと切り替えたという。
店長の裁量が拡大した部分として、例えばパート・アルバイト従業員の時給がある。パート・アルバイトはスキルの向上によって昇格があり、10円刻みで時給が上がっていく。以前は最低時給からプラス60円までは店長の裁量で決められたが、それ以上の昇格・昇給については本部の承認を得る必要があった。
それが2024年からは、140円まで店長が決定権を持つこととなった。従業員のモチベーションを引き出すことはもちろん、トレーナーやリーダー役を担う人材の育成なども、店長主導で進めやすくなったのだ。
採用数大幅増、クルーの定着率も向上 「店長への権限委譲」が大きな効果
店舗中心経営の効果はすでに表れている。まず、パート・アルバイトの採用数が増えた。2024年度は6万1764人を採用しており、これは前年の採用数の約1.15倍である。定着率も高まった結果、1店舗あたりの在籍人数が2022年末の30.9人から2023年末に31.3人、2024年末には35.1人へと増えている。
すかいらーくHD 人財本部 デピュティマネージングディレクターの下谷智則さんは、「人手不足はお客さまへのサービスの質の低下を招き、それが再来店の減少につながるという悪循環を引き起こすため、当社にとっては最優先の課題」と語る。そして現在の状況を「東京の中心部などの店舗ではまだまだ足りないところもあるが、全体としては人手不足感が弱まっている」と評価した。グラフを見ると2025年度に採用数が減少しているが、これは人員が充足している店が増えたことの表れである。
しかし、店長の好みや気分で昇給・昇格が決まるようなことがあっては、かえってモチベーションが下がってしまう可能性もある。同社の場合、本部側でスキルレベルを標準化し、評価の基準を明確にしている。だからこそ店長が的確に判断でき、従業員の納得度も高いのだろう。
加えて筆者は、店舗のDXやオペレーションの効率化もパート・アルバイトの定着に大きな役割を果たしていると感じる。すっかりお馴染みになったネコ型の配膳ロボットやデジタルメニューブックによる注文、テーブル決裁やセルフレジなどは、顧客の利便性を向上させるとともに従業員の働きやすさにもつながる。
動画化されたマニュアルがそろっていて、個人のスマホや店舗のタブレットでいつでも閲覧できるといった学習環境の充実も、スキルとサービス品質の向上に役立っている。こういったことを各店長の努力に任せるのではなく本部として押し進めることができるのが、すかいらーくグループの強みだろう。
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