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「年収1000万円店長」誕生へ すかいらーくの徹底した「店舗中心経営」が生み出す好循環(2/2 ページ)

すかいらーくは「店舗中心経営」を掲げ、人的資本経営を推進している。

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ポイント付与とスキマバイト制度で「繁忙期に人が足りない」を解決

 グループ全体でのDXやオペレーション改善が各店舗の経営を支えている例として、「クルーポイント制度」と「スポットクルー制度」にも注目したい。

 クルーポイント制度とは、パート・アルバイトの勤務実績に応じてすかいらーくグループの飲食店で使えるポイントを付与する制度だ。週末やお盆、花火大会がある日などの繁忙期にはポイントを加算することで、人手の確保がしやすくなっているという。

 「週末に働けるけれども働いていない方、毎回は難しいけれども時々は週末に勤務できるという方もいます。そういった方たちに週末や商繁期に出勤していただくためのツールとして、クルーポイントを導入しました。最近は店長が個別に出勤交渉をするのにポイントを用いるなど活用範囲が拡大し、従業員からも好意的に受け止められているようです」(下谷さん)

 週末の出勤者を増やすには時給を上げるという方法も考えられる。しかし、店舗のパート・アルバイトの多くは高校生や大学生であり、単純に時給を上げると年収の壁にぶつかってしまい、かえって働ける時間が減ってしまうこともある。この点でも、福利厚生としてポイントを付与するのはうまい方法なのだ。

 「スポットクルー制度」は、「タイミー」や「シェアフル」などスキマバイトのマッチングサービスの、すかいらーく版といったところだ。

 現在のところ、普段は特定の店舗で働いているパート・アルバイトが、全国約2600の店舗が出す単日バイトの募集に応募できる仕組みになっている。「授業が休校になって空いた時間に、大学の近くのお店で働きたい」「帰省中に実家の近くの店で働きたい」といったニーズを満たすことができるのだ。

 同社では「ガスト」と「夢庵」などブランドが違ってもオペレーションが統一されている部分が多く、普段働いているのとは異なる店でもすぐに働けるという。これも、すかいらーくグループならではの強みだろう。

 これらの施策が功を奏し、来店が増えるタイミングに多くの人員を当てられるようになった。前掲のグラフで、労働時間が増えていること、それ以上に売り上げが増えて人件費率が下がっていることからも見て取れる。

 下谷さんによれば、スポットクルー制度は現役のパート・アルバイトだけでなく、かつて働いたことのある経験者、全くの未経験者にも対象を広げていく構想があるそうだ。そうなると、学生時代にアルバイトをしていた社会人が週末の副業として店で働いたり、未経験者がレギュラーのバイトに応募する前に単日バイトを試してみるといった使われ方も期待できそうだ。

すかいらーくに学ぶ「人的資本経営」の本質

 「人をコストではなく価値の源泉と捉え、人的資本に投資すべし」とは、最近の大企業ならどこでも念頭に置いている考え方だろう。しかし「人への投資」とは具体的にどういうことなのか、それによって本当に企業価値が高まるのか、疑問を感じている経営者も少なくないはずだ。

 すかいらーくグループの「店舗中心経営」は、そんな疑問に対する一つの答えを示している。

 同社は、まず徹底的なデジタル化と効率化によって「機械にできることは機械に任せる」を実現し、「人間でなければできない価値創造」の領域に人の力を集中させている。「人に投資する」とは単に人件費を増やすことではなく、人が最大限の力を発揮できるように環境やプロセスを整備することも含まれるのである。

 店長の裁量拡大、クルーポイント制度、スポットクルー制度といった仕組みも、この戦略の一環として機能している。デジタル化で創出したリソースを、現場の創意工夫や人間的なサービスなどに注ぎ込むということが、ブランドを超えたグループの総合力で実現されているのだ。

 この「選択と集中」を徹底した人材戦略により、顧客満足度の向上、収益の増加、そして更なる人材やDXへの投資へ。そんな好循環が実現しつつあるすかいらーくの、今後の展開にも大いに注目したい。

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やつづかえり

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。

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