障害者雇用「3%超」の先進企業、マネフォが求職者面接で必ず聞く質問とは?(1/2 ページ)
2024年4月、障害者の法定雇用率が2.3%から2.5%に引き上げられたが、それを達成している民間企業は46.0%と半数を割る。本記事では、障害者雇用での採用が社員全体の3.08%を誇る“先進企業”、マネーフォワード社の取り組みを紹介する。
2024年4月、障害者の法定雇用率が2.3%から2.5%に引き上げられたが、それを達成している民間企業は46.0%と半数を割る。
前編では障害者雇用が進まない要因を解説。また、法定雇用率が達成できている会社でも「代行ビジネス」の活用や「農園型障害者雇用」が多いことなどの課題を紹介した。
後編となる本記事では、障害者雇用での採用が社員全体の3.08%を誇る“先進企業”、マネーフォワード社の取り組みを紹介する。
前編:「代行ビジネス」活用で農園作業……進まない障害者雇用、隠れた問題点も
福祉ではなく「キャリア支援」 雇用率3%を超えるマネフォの取り組み
マネーフォワードは、2025年2月末時点で約60人の障害者を雇用している。社員全体の3.08%と法定雇用率を余裕でクリアしているだけでなく、障害の種別は精神障害者がほとんどでありながら離職率が7.4%に抑えられているという点でも注目に値する。
なぜこのようなことが可能なのか、同社の障害者採用の入口であり、採用された方の多くが所属するビジネスサポート本部の石井一弘さん(副本部長)、北島直人さん(採用・定着支援部 副部長)、井口夏子さん(アウトソーシング部 副部長)にお話を伺った。
まず他社との差を感じるのが、障害者雇用に関わる体制の手厚さだ。石井さんは、かつて教育サービスを提供するLITALICOで障害者の就労支援に携わって以降、さまざまなかたちで障害者の雇用促進に関わってきた。北島さんは前職の小売業界で障害者雇用を担当しており、井口さんは2018年にマネーフォワードに入社した当時から障害者雇用に携わっている。3人の他にも障害者雇用や支援の経験のあるメンバーが複数おり、採用や日々のマネジメントに当たっているという。
さらに同社の本気度を感じさせるのが、2022年から運用する人事制度「インクルーシブコース」と、2023年に公開した障害者雇用に関する「支援ポリシー」だ。
「インクルーシブコース」は、一定の配慮を受けながら、できる範囲の業務をやり遂げることを目標におく障害者雇用のメンバーのための人事制度だ。それ以前は、メンバー個別の事情に合わせて評価担当者が柔軟に評価や昇給を決めていた。そのやり方がメンバーが増えるにつれて難しくなり、共通の指針となる共通の制度を作ることにしたのだ。
その際、障害者の体調や生活の安定を重視するあまり軽視されがちな「挑戦」や「成長」「やりがい」といった要素を大切にし、単なる福祉ではなくキャリア支援としての障害者雇用という考え方が明確になった。それが、後に打ち出された「支援ポリシー」にも反映されている。
「支援ポリシー」を広く公開するのは、同社で働こうとする障害者だけでなく、彼らを支援する人たちに考え方を知ってもらうという点でも重要だ。なぜなら、障害者就労移行支援施設や福祉事業所などが、障害者の就職に大きな役割を果たしているからだ。
「実は当初は、当社のカルチャーにマッチする人がなかなかいない、というところで苦戦していたんです。その後『支援ポリシー』を公開したり、就労移行支援を行う施設や福祉事業所の皆さん向けの企業見学会を頻繁に開催したりして、弊社の思いや取り組み、求める人物像などを理解していただくよう努力しました。その結果、当事者の方に事前にいろいろとインプットしていただけるようになったんですね」
「それにより、当社のカルチャーとミッション、ビジョン、バリューズをしっかり理解し、そこに共感する方に多く来てもらえるようになりました。それが高い定着率につながっているのだと思います」(石井さん)
面接時に必ず聞くこと
採用を担当する北島さんは、カルチャーにマッチしていることに加え、しっかりと自己理解ができているかどうかを重視して選考に当たるという。
「ご自身の自己理解や自己対処、障害の受容なども含めて詳しくお伺いしています。それにより、どのような配慮があれば活躍できるのかをご自身でどのくらい理解できているかといったことを見させていただきます。長く働いていただいて活躍していただくためにも、そこがすごく大事だと思うからです」(北島さん)
採用後は、週3〜4日のリモートワークができる、困った時に相談できる体制があるといった働きやすい環境の整備や、助け合えるカルチャーが土台になったチームワーク、「インクルーシブコース」の段階に沿った成長の支援などが定着率に寄与している。
日々の業務のマネジメントやサポートを行う井口さんは、本人の状況を見ながら徐々にステップアップできるように支援することを重視している。
「インクルーシブコースは、入社時はファーストステージから始まり、徐々にステージが上がっていく仕組みになっています。その中で成長していけるように支援するのが私たちの役割です」(井口さん)
「まず、入社した時点では慣れない環境で始めることになりますので、例えば最初の1週間は支援の担当者が毎日振り返りの面談をするなどして伴走します。入社1カ月が過ぎてからは、その方の状況によって上長との面談の回数を調整したりし、順調にオンボーディングが終わった方についても、月に1度は必ず面談をすることで、その方が会社に定着していけるようサポートしていきます。困ったことがあれば投稿フォームに入力してもらい、相談の機会を得られるような仕組みもあります」
「組織が大きくなってきたことで、最近は私たちマネジメントのメンバーの他に先輩社員が力になってくれます。チームで朝礼をしたり週次の定例ミーティングをしたりする中で、他のメンバーとコミュニケーションを取りながら成長していくことができるようになってきたように思います」(井口さん)
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