鳥山明の元アシスタント・まつやまたかし氏が仕掛けた「古着×アート」の新商売:DIYで倉庫を個展会場に(1/2 ページ)
岐阜県関市にある古着店「MATS」を経営するのは、鳥山明さんの2代目アシスタントを10年間務めていた画家・まつやまたかしさんだ。どんな狙いで古着店を開いたのか。絵画ビジネスの苦労について、まつやまたかしさんに聞いた。
国内のリユース・古着市場が拡大している。環境省の「リユース市場規模調査 報告書」によると、2023年の国内リユース市場は3兆1227億円で過去最高。2009年以降14年連続で市場が拡大し続けている。分野別に見ると「衣料・服飾品」がトップで、前年比15.5%増の5913億円と堅調だ。
こうした背景から、古着店を新たに出店させる動きも加速している。個人でもインスタグラムなどSNSで広報できるため、地方に出店しても幅広いエリアからの来店が期待できるという。
岐阜県関市にある古着店「MATS」もその一つだ。同店は2024年12月に、DIY(Do It Yourself)によって改築した建物に開業した。経営するのは、『Dr.スランプ』(ドクタースランプ)、『DRAGON BALL』(ドラゴンボール)の作者、鳥山明さんの2代目アシスタントを10年間務めていた画家・まつやまたかしさんだ。MATSでは古着を販売したり、まつやまさんの描いた絵や、グッズを販売したりしている。
どんな狙いで古着店を開いたのか。絵画ビジネスの苦労について、まつやまたかしさんに聞いた。
まつやまたかし 1957年生まれ。岐阜県在住。映画とクルマをこよなく愛しており、独自のフィルターを通して描き出される緻密な世界観は、夢と空想のオリジナルワールドを築き上げている。鳥山明氏の2代目アシスタントとしてのキャリアを皮切りに、ヴィレッジヴァンガード絵本、雑誌『Daytona』“シネマプラス”連載、所ジョージの世田谷ベース、トヨタ博物館、金沢21世紀美術館での個展など、さまざまなフィールドで活躍している。『トムとジェリーをさがせ!シリーズ』『トムとジェリーをさがせ! みなみのしまのだいぼうけん』(以上、河出書房新社)『ウルトラセブンのおもちゃ箱』などのさがし絵本も発売中。特にまつやまワールドが表現されているのは、世界の都市とクルマを描いた「MOTOR PANIC」シリーズ
思い立って4カ月 「40畳の倉庫」が“常設展”に再生
――まつやまさんの近年のお仕事について教えてください。
主に広告で使われるイラストの仕事をしています。東京では、立川駅周辺の開発などを手掛ける立飛ホールディングスの100周年記念に合わせた大きなイラストを描きました。JR立川駅の壁にも使われていて、日経新聞全国版にも見開きで掲載されました。
東京・たまプラーザの案件も担当したことがあります。いずれも発注者が私の作風や世界観を見せたいと考えてくださっていましたので、だいたいのオーダーを受けて、あとはあまり細かく注文されず、自由に描かせてもらいました。
――現在は、広告や商業イラストのお仕事が中心なのでしょうか。
基本的にはそうですね。ただ、依頼がいつ来るか分かりませんし、時期によっては重なってしまうこともあります。どうしても受けきれない案件はお断りせざるを得ないこともあります。1人でやっているので、対応できる範囲に限界があります。
――住まいがある岐阜県関市では、古着店を経営しています。始めたきっかけを教えてください。
古着屋の改装を始めたのは2024年の6月です。実家の車庫の上に、使っていなかった40畳ほどの部屋があったんですが、ずっと物置きになっていました。片付けてみようと思って、片付け始めたら、「ここを使ってお店ができるかもしれない」とひらめいたのです。
――店舗は、夫婦でDIYをして作ったそうですね。
そうなんです。思い立った翌日には作業を始めて、4カ月ほどかけて妻と2人でDIYで作り上げました。古着も好きでしたし、普段からそうしたものに触れていたので、自然と「お店でもやってみようか」という流れになったんです。
最近は、地方や田舎でも個性的なお店が増えています。ネットでの発信も手軽にできる時代ですから、地方にあるお店にも広い範囲からいろいろな人が来てくれます。SNS、特にInstagramやGoogle マップにも情報を載せているので、それを見て来てくれる方も多いんですよ。新聞にも何度か取り上げていただきました。
――店頭ではどんなものを販売しているのでしょうか。
店舗には、倉庫にあった雑貨や、私自身がコレクションしてきたもの、なかなか捨てられずに保管していた古い米国の電話機やプラモデルなど、いろいろなものを置いています。普段は松坂屋さんや三越さんといった百貨店で展示販売している絵の作品も、そのままお店の一角にミニギャラリーとして常設展示しています。
百貨店での展示は年に2、3回ほど、1週間限定という形で開催していたのですが、(百貨店の展示だけでは)タイミングが合わずに見られないという声も多かったのです。一方うちの店頭なら、いつでも作品を見ていただけます。ずっと倉庫にしまい込んでいた物も、やっと人目に触れるようになったので、とてもよかったと思っています。
――米国というテーマやDIY、つまり「自分で作る」ということが、まつやまさんの作品や活動のキーワードになっているように感じます。
まさにそれが一番好きなことですね。何かを作るということが本当に楽しいんです。今回のお店作りもそうでしたが、自分の手でお洒落な空間を作ったり、古い物を再利用する作業は、やればやるほどのめり込んでいきました。
――店舗づくりはどのように進めたのでしょうか。
最初は本当にゴミ屋敷状態だったので、まずはそこから片付けを始めました。市のリサイクル施設を利用して何度もピストンで運び出して、使えそうなものは残して再利用もしました。家具や什器はリサイクルショップやアウトレットで探してきたものばかりですし、壁も天井も2人でペンキを塗って、壁の全面をハワイアンハウスのイメージで、胴縁を縦に打ち付けたのでガラリと表情が変わりました。
出入口のドアは古い10パネルのドアを3分の2だけ切り抜き、ガラスをはめてストアドアに加工しました。ガラス面には、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のニューヨークエリアで見つけたウィンドウの書体を模したショップ名を入れました。
隣の窓にはステンドグラスとガラスブロックを、はめこんであります。建物自体は古い倉庫で、入り口の外階段はあえて塗装をせず、錆びた古い雰囲気もそのまま生かして、お店の独特の味になっています。
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