鳥山明の元アシスタント・まつやまたかし氏が仕掛けた「古着×アート」の新商売:DIYで倉庫を個展会場に(2/2 ページ)
岐阜県関市にある古着店「MATS」を経営するのは、鳥山明さんの2代目アシスタントを10年間務めていた画家・まつやまたかしさんだ。どんな狙いで古着店を開いたのか。絵画ビジネスの苦労について、まつやまたかしさんに聞いた。
老舗百貨店の来場者が基盤 新規ファン創出へ
――百貨店での展示販売は、どのくらい実施していますか。
名古屋の三越さんや松坂屋さんでの展示は、担当の方がいろいろと手配をしてくださり、もう20回以上になります。展示では作品の点数も多く、グッズもたくさん並べます。会期中は毎日通って、顧客と直接話をして対応できるので、非日常的な体験としてとても楽しんでいます。
近いところでは8月13〜19日、愛知県の名古屋栄三越の3階で午前10時から午後8時まで「まつやまたかし展」という展示販売をします。私も毎日店頭に立っています。1週間通しなので体力的にはなかなか大変ですが、これも非日常的な体験として楽しみにしています。今回はやりませんが、過去の展示販売では、その場でライブペインティングをやったことがあります。
――自身の作品の展示販売の場として、ギャラリーではなく百貨店を選ぶことに、何かこだわりがあるのでしょうか。
実は、最初は銀座などにある、ギャラリーで展示をやってみたいと思っていたんです。実際に一度大きな作品を持ち込んだことがあります。ただ、私が作るのはデジタルの作品ですから、原画の一点ものを求める客層と合いませんでした。
ギャラリーの方にも「作品としては面白いけれど、うちのギャラリーではちょっと違うかな」と言われてしまったことがありました。その後すぐに百貨店から展示のお話をいただいたんです。
――百貨店での展示には最初どんな印象を持ちましたか。
最初は正直、「百貨店で自分の作品が売れるのかな?」と半信半疑でした。婦人服や子ども服売り場のようなフロアでの開催でしたし、グッズの種類も少なかったですから。でも実際にやってみると、想像以上によく売れたんです。それから名古屋の松坂屋でもやることになり、通りに面した1階の路面店で開催したのですが、そこでも来場者がふらっと立ち寄ってくださって、気に入ったものを買っていただけました。百貨店ならではの発見がありました。
それ以来、いろいろな百貨店から声をかけていただくようになりました。百貨店だと、ギャラリーに比べて幅広い層の方が来店されますし、今まで自分の作品を知らなかった方とも出会えるのが最大の魅力ですね。老舗の百貨店では、やはりしっかり見てくださる来場者も多いですし、作品の新しいファンにも出会えるので、ありがたく思っています。
オークションの手数料は約20% ギャラリーは?
――絵画は百貨店では50〜60万円といった価格帯が中心のようですが、自身のショップだと違いはありますか。
展示販売しているものには、一点物の原画と、”MOTOR PANICシリーズ”のジクレー版画がありますが、自分の店で販売する場合も価格は統一しています。
百貨店での展示以外にも、全国各地で催されるイベントに出品することがあります。例えば大阪の帝国ホテルで開かれるような大きな催事にも参加しています。2024年は、そうしたイベントに出品したところ、当日で全て完売しました。現場でその場で描き始めて、まだ下書きの段階なのに「これを買います」とおっしゃってくれる方もいらっしゃいましたね。
――絵画販売では、例えばオークションになると20%程度の手数料が取られると聞きます。ギャラリーやイベントでの販売も、結構な仲介料がかかるのですか。
そうですね。オークションには出したことがないので分かりませんが、催事の規模によっては(ギャラリーから)40%から50%程度引かれることもあります。なかなか大きな割合ですが、それでも売れるときはしっかり売れるのが、こうした販売形式の面白いところです。
――自身の店頭での作品やグッズ販売は、まつやまさんの経営の中では、どんな位置付けになっているのでしょうか。
普段、展示でご覧いただくような原画や小さめの作品のほか、Tシャツやタオル、スマホケース、絵本といったグッズも取りそろえています。ステッカーやキーホルダー、ポストカードといった手軽に楽しんでもらえるものも用意しています。
オリジナルグッズに関しては最初、クリアファイルや絵本ぐらいしかなかったのですが、ファンの方からのニーズを受けて、徐々にアイテムを増やしてきました。原画など高額なものには手が出なくても、何かイラストが欲しいという声が多く、そうした需要に応えられるよう意識しています。
古着店は来訪者との対話の場 等身大の運営を継続
――グッズの売れ行きはいかがですか。
オリジナルグッズもコンスタントに売れています。一番売れるのはオリジナルTシャツやタオル、「トムとジェリー」のさがし絵本ですね。新しいグッズを作るにも最低ロットがあるので、投資となり在庫を抱えることになります。よく売れる物や全く売れない物があるので、ある意味”賭け”ですね。なので無闇には出さず、市場で製品になっている物を参考にしながら慎重に増やしています。
――グッズはまつやまさん自身で制作しているのですか。
基本的にグッズは、自分たちで考えたアイデアを、外注で作ってもらっています。スマホケースは千葉の業者さんですし、Tシャツやステッカー類は、友人の名古屋の業者さんにお願いし、いろいろなつながりを生かして制作しています。
――古着店では今後、どんな展開を考えていますか。
もっと面白いモノを増やして楽しいショップにしたいと思っています。InstagramやGoogle マップなどで知っていただき、わざわざ見に来てくださる方が多いのは本当にありがたいことです。毎日、未知の出会いがあり、そうした方々と直接お話できる場所を持てたことがとても楽しいですね。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「これさぁ、悪いんだけど、捨ててくれる?」――『ジャンプ』伝説の編集長が、数億円を費やした『ドラゴンボールのゲーム事業』を容赦なく“ボツ”にした真相
鳥山明氏の『DRAGON BALL(ドラゴンボール)』の担当編集者だったマシリトこと鳥嶋和彦氏はかつて、同作のビデオゲームを開発していたバンダイに対して、数億円の予算を投じたゲーム開発をいったん中止させた。それはいったいなぜなのか。そしてそのとき、ゲーム会社と原作元の間にはどのような考え方の違いがあったのか。“ボツ”にした経緯と真相をお届けする。
『ジャンプ』伝説の編集者が「最初に出したボツ」 その真意とは?
『週刊少年ジャンプ』で、『DRAGONBALL』(ドラゴンボール)や『Dr.スランプ』(ドクタースランプ)の作者・鳥山明さんを発掘した漫画編集者の鳥嶋和彦さん。鳥嶋さんの代名詞である「ボツ」を初めて出したときの状況と、その真意を聞いた。
『ジャンプ』伝説の編集長が、『ドラゴンボール』のゲーム化で断ち切った「クソゲーを生む悪循環」
『ドラゴンボール』の担当編集者だったマシリトはかつて、同作のビデオゲームを開発していたバンダイのプロデューサーに対して、数億円の予算を投じたそのゲーム開発をいったん中止させるという、強烈なダメ出しをした。ゲーム会社と原作元の間にはどのような考え方の違いがあったのか。「クソゲーを生む悪循環」をいかにして断ち切ったのか?
ドラゴンボールの生みの親 『ジャンプ』伝説の編集長が語る「嫌いな仕事で結果を出す方法」
『ドラゴンボール』の作者・鳥山明を発掘したのは『週刊少年ジャンプ』の元編集長・鳥嶋和彦さんだ。『ドラゴンクエスト』の堀井雄二さんをライターからゲームの世界に送り出すなど、「伝説」を残してきた鳥嶋さんだが、入社当時は漫画を一切読んだことがなく『ジャンプ』も大嫌いだった。自分のやりたくない仕事で、いかにして結果を出してきたのか。
『ジャンプ』伝説の編集長は『ドラゴンボール』をいかにして生み出したのか
『ドラゴンボール』の作者・鳥山明を発掘したのは『週刊少年ジャンプ』の元編集長である鳥嶋和彦さんだ。『ドラゴンクエスト』の堀井雄二さんをライターからゲームの世界に送り出すなど、漫画界で“伝説の編集者”と呼ばれる鳥嶋さん。今回は『ドラゴンボール』がいかにして生まれたのかをお届けする。
『ジャンプ』伝説の編集長が語る「21世紀のマンガ戦略」【前編】
『ジャンプ』伝説の編集長、マシリトこと鳥嶋和彦氏が21世紀のマンガの在り方を余すところなく語った前編――。
『ジャンプ』伝説の編集長が語る「21世紀のマンガ戦略」【後編】
『ジャンプ』伝説の編集長、マシリトこと鳥嶋和彦氏による特別講義の後編――。コミケの初代代表である原田央男氏がリードする形で、文化学園大学の学生からの質問に直接答えた。
『ジャンプ』伝説の編集者が『Dr.スランプ』のヒットを確信した理由
鳥山明さんの才能を発掘した伝説の編集者・鳥嶋和彦さんが、コミケ初代代表の霜月たかなかさん、コミケの共同代表の一人で、漫画出版社の少年画報社取締役の筆谷芳行さんの3人がトークイベントに登壇した。




