海外工場で失敗しない「工場内物流」設計の極意 工程間の“つなぎ”を制する者が勝つ:仙石惠一の物流改革論
海外工場を建設する際に、効率的な「工場内物流」を設計することは極めて重要になってくる。この工場内物流は、その工場の生産思想に基づいて設計されるのが一般的である。したがって生産技術を担当する部門で行うことが望ましい。
連載:仙石惠一の物流改革論
物流業界における「2024年問題」が顕在化している。この問題を克服するためには物流業の生産性向上以外の道はない。ロジスティクス・コンサルタントの仙石惠一が、運送業はもちろん、間接的に物流に携わる読者に向けて基本からノウハウを解説する。
海外で事業展開を始める際に、製造企業などが避けて通れないのが物流拠点の設置だ。
――と、企業が海外進出において物流を成功させるためのポイントを紹介してきた。今回もその続きとなる。
海外工場を建設する際に、効率的な「工場内物流」を設計することは極めて重要になってくる。この工場内物流は、その工場の生産思想に基づいて設計されるのが一般的である。したがって生産技術を担当する部門で行うことが望ましい。
しかし、生産技術部門は生産工程内の設計は行うものの、工程間のつなぎの部分まで目が行き届いていない場合がある。その理由として加工工程は加工技術の専門家が行い、組立工程は組立技術の専門家が行うといった、縦割り型の業務プロセスになっていることが考えられる。
その場合、物流部門にこの工程間の設計を行うことが求められる可能性があるのだが、このような工程設計に慣れていない物流担当者も多いはずだ。今回は、その留意点について解説していく。
工程間の“つなぎ”がカギ 「工場内物流」設計の必須チェックポイント
(1)工程間のコーディネート
プレス工程は2日ロットで生産し、加工工程は1日ロット生産、そして組立工程は1個送り生産する、ということになると、工程間在庫が発生し、保管エリアが必要になる。
各工程での生産方法が調整されていればよいが、もし考え方が合っていないのであれば、立ち上がり後の物流運用も苦労することになる。まずはこの工程間の考え方の合意が取られているかを確認し、場合によってはコンセンサスを取るための調整を行っておこう。
(2)工程間運搬方法の確認
工程間の運搬をどのような機器を使って、どれくらいの頻度で行っていくのかを決めていこう。部品を供給する際に容器に入ったまま届けるのか、順番に並べて容器を外して供給するのか、といった条件を定めることが必要だ。
納入荷姿から供給荷姿へ変換する方式を採用すれば、その作業のためのエリアが必要になってくる。フォークリフトで運搬するのであれば一定の幅の通路を設置する必要がある。物流は「生まれ」で決まるところが大きいので、初期条件を間違えると後々苦労することになる。物流エリア、運搬方法、荷姿条件などについて慎重に検討したい。
(3)工場内物流の役割の確認
工場内物流には、1)サービス業としての役割、2)生産統制の役割、3)自ら効率化する役割――の3つがあることは以前の記事で解説した通りである。新たに建設する海外工場ではこの3つが全て網羅できるように設計をしていこう。
1)では生産ライン作業者には余分な作業をさせない、2)では部品と生産指示のタイムリーな運搬を行う、3)ではそもそもムダな物流が発生しないようにすることで、工場内物流がその工場に価値を与えられるようにしていこう。
(4)受入場・出荷場の確認
工場の受入場・出荷場の設計には注意が必要である。工場の物流担当者は、工場内の物流には詳しくても輸送に代表される外回りの物流には疎い場合がある。また国内の外回り物流には詳しくても、海外物流を知らないことも多い。
したがって、この外回りの物流との接点である受入場・出荷場の設計時には「勝手な思い込み」を捨てて、現地物流をしっかりと調査した上で行うことが必要である。
特に注意すべきポイントは、現地で使うトラックのタイプである。両サイド荷役が可能なウイング車タイプなのか、リヤゲート荷役が中心なのか、トラックの全長は最大でどれくらいか、などをきっちりと調査をした上で「プラットフォーム」や「ドック」設置の必要性について判断しよう。
輸送モード選びから混載戦略まで 外回り物流設計の実践ノウハウ
主として部品や資材などの調達物流、製品の販売物流などの「外回り物流」の設計は、物流部門の業務である。これらについて調達リードタイムや販売リードタイムをどれくらいにするかによって物流条件が決まってくる。
リードタイムに余裕があれば、船舶や鉄道による輸送を選択することになるが、それが短ければトラックや航空機による輸送が必要になる。この選択を「輸送モードの選択」という。輸送モードが決まれば、それに見合った荷姿設計を行うことになる。トラック輸送を行う場合には道路条件によっても荷姿は変わってくる。また現地の荷扱いの状況によっても変えていかなければならない。
調達物流や販売物流では、一定の荷量があれば調達先や販売先との間を直送できるが、荷量が少なければ複数の調達先や販売先の荷の混載を行って輸送効率を高める必要がある。この混載の方法として、輸送経路の中間に倉庫を設けてそこで方面別の荷を混載する「クロスドック方式」、複数の調達先や販売先を一台のトラックで巡回しながら集荷・配送を行う「ミルクラン方式」、その組み合わせなどが考えられる。
もし工場の外にクロスドックや倉庫を設けるのであれば、その場所や倉庫仕様の決定、倉庫間の輸送設計業務が発生することを忘れてはならない。またその倉庫や輸送業務をアウトソースするパートナーの選定も物流部門の重要業務となるので、事前に必要なデータや知識を入手しておこう。
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