人口1万人弱の町で「マイナンバーカード」を生活インフラに どんな変化が起きた?:見守りサービスやポイントサービスなど(1/3 ページ)
富山県朝日町と博報堂で、2020年から公共DXサービス開発・実装がスタート。「マイナンバーカード」を生活のインフラにする、新しい取り組みを開始しています。
この記事は、博報堂が運営する“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信が2025年6月2日に掲載した「人口1万人の町で実現した先進的な住民サービスプラットフォーム「LoCoPiあさひまち」【富山県朝日町】)」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
富山県朝日町と博報堂で、2020年から公共DXサービス開発・実装がスタートしています。朝日町の笹原靖直町長、山崎富士夫副町長、「みんなで未来!課」の住吉嘉人課長の3人をお招きし、2024年に始まったマイナンバーカードを活用した公共サービスパス「LoCoPiあさひまち」の取り組みと、同町における官民協業の意義について、博報堂のメンバーと語り合いました。
笹原靖直氏
富山県朝日町 町長
山崎富士夫氏
富山県朝日町 副町長
住吉嘉人氏
富山県朝日町 みんなで未来!課 課長
畠山洋平
博報堂 地域共創プラットフォーム事業推進局 局長
堀内悠
博報堂 ストラテジックプラニング局 局長補佐
肩書はウェビナー実施時のもの
「マイナンバーカード」を生活のインフラに 朝日町は何をした?
──朝日町と博報堂の取り組みがスタートしたのは2020年でした。はじめに、このコラボレーションの意義についてお聞かせいただけますか。
笹原: 官民連携の取り組みは全国各地で進められていますが、リソースの問題などから限定的な連携にとどまるケースが少なくありません。一方、朝日町と博報堂の皆さんとの関係は、5年間の長きにわたっています。このような長期的関係によってさまざまな価値を生み出す取り組みこそが、真の官民連携であると私は考えています。
それを全国の自治体に先駆けて実現してきた点において、私たちは官民連携の「ファーストペンギン」である。そう自負しています。大臣や全国の首長が相次いでこの町に視察に訪れたのも、公共と民間企業のコラボレーションの一つのお手本となるケースだからだと思います。
山崎: 私が町の職員になって40年以上になります。その間、県庁などに出向したこともありましたが、このような形で官民連携が実現したことは過去には一度もありませんでした。人口1万人に満たない小さな町で、全国の自治体の先端を行く取り組みができていることを誇りに思っています。
──そのような関係を育むことができたのはなぜなのでしょうか。
畠山: 共通したビジョンがあることが一番大きいと思います。朝日町だけがよくなればいいというのではなく、朝日町から富山県、富山県から日本へと価値を広げていく。この小さな町から日本の未来を創っていく──。そんなビジョンを僕たちは共有しています。
博報堂側の視点で言えば、グループのフィロソフィーの一つである生活者発想を取り組みのど真ん中に置いてきたことが継続性につながっていると考えています。通常のクライアント支援のビジネスでは、「企業の先にいるエンドユーザー」として生活者を捉えることが多いのですが、自治体においては僕たちも生活者に直接対峙しなければなりません。そのぶん、生活者の課題やニーズをダイレクトに知ることができます。その知見や感覚を何よりも大切にしてきたことが、5年間という長期的連携の基盤となっていることは間違いありません。
──「LoCoPiあさひまち」のサービスがリリースされたのは2024年1月でした。このサービスの概要や特徴についてご説明ください。
堀内: 最大のポイントは、マイナンバーカードを活用したサービスである点です。マイナンバーカードの保有率は全国で8割近く(2025年4月25日時点)に達していて、子どもから高齢者までが保有しています。このいわば国民的インフラを地域の課題解決に活用できないかと考えました。
マイナンバーカードにはICチップがついています。このチップには空き領域があり、いろいろなサービスに活用できるような仕様が提供されています。全国的には、まだまだ利用事例が少ないのですが、僕たちはこの空き領域に着目し、(1)朝日町町内の施設利用によるポイントサービス (2)子どもや高齢者の見守りサービス (3)公共から民間事業者まで活用できる地域通貨サービスを、マイナンバーカードに組み込むことにしました。
例えば、朝日町が運営する図書館や体育館などの施設に行って、設置されている端末にカードをタッチするとポイントがたまる。同じように民間施設であってもポイント端末を設置していただくことで、同じプログラムに参加できます。
見守りサービスでは、子どもが小中学校の登下校時に「こども専用カード」をタッチすると、保護者にメールで知らされる。あるいは、高齢者がイベントなどに参加した際に自身のマイナンバーカードを専用端末にタッチすると、遠隔地に住んでいる家族にその旨が通知される。これらの機能を、マイカー公共交通サービス「ノッカル」や、地域教育サービス「みんまなび」といった、朝日町とともにこれまで展開してきたサービスと連携させ、生活のさまざまな局面で活用できるようにしました。
──さまざまな公共サービスで使える「マルチパス」と言えそうです。
堀内: 令和6年度には、地域通貨「LoCoPiあさひまちコイン」をスタートしました。マイナンバーカードに現金をチャージすれば、カードをタッチするだけで買い物ができる機能で、現在町内60店舗以上の商業施設で利用することが可能です。さらに、防災機能も追加しました。LoCoPiあさひまちと同じシステム、端末を活用し、町内の指定避難所においてマイナンバーカード一枚で避難者の受付や管理を可能にする防災サービスです。
──まさに生活インフラというわけですね。
堀内: そのとおりです。マイナンバーカードは、これまで日常使いされるものではありませんでした。しかし、カードに生活インフラの機能を持たせることによって、誰もが常時持ち歩くものになります。
多くの人が生活動線上のさまざまなポイントでカードを活用することになれば、自然とデータが蓄積していきます。そのデータを検証することで、住民や行政の新たな課題が明らかになり、地域生活をさらに快適にするための施策やコストの最適化を実現できる。そう考えました。今後、マイナンバーカードが運転免許証と統合されていくと、持ち歩くことはさらに一般的になりますし、防災面でも日常使いのサービスの延長線上で災害に備えるという、フェーズフリーは非常に重要だと考えています。
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