人口1万人弱の町で「マイナンバーカード」を生活インフラに どんな変化が起きた?:見守りサービスやポイントサービスなど(2/3 ページ)
富山県朝日町と博報堂で、2020年から公共DXサービス開発・実装がスタート。「マイナンバーカード」を生活のインフラにする、新しい取り組みを開始しています。
マイナンバーカード保有率を上げるための地道な取り組み
──「LoCoPiあさひまち」を管轄しているのは、2022年度に新設された「みんなで未来!課」とのことです。このサービスの開発にあたって、みんなで未来!課としてどのようなご苦労がありましたか。
住吉: 最初の大きなハードルは、町内におけるマイナンバーカードの普及でした。「LoCoPiあさひまち」を構想した時点で、朝日町のマイナンバーカード普及率は県内の自治体中最下位でした。そこで、本庁全職員が町内全てのご自宅を一軒一軒回って、取得を促していきました。その取り組みが功を奏して、現在では83%と県内トップクラスの普及率となっています。
しかし、堀内さんからあったように、「LoCoPiあさひまち」を実現するには、マイナンバーカードを保有しているだけでなく、日常使いをしてもらわなければなりません。どのようなサービスを実現すれば、使ってもらえるか。それを考えるために、町内10地区の自治振興会に足を運び、サービスのイメージを伝え、それに対する要望などをヒアリングして具体的なたたき台をつくる作業を行いました。また、住民の代表である議会の皆さんを対象にした勉強会も何度も開催しました。そういった取り組みの結果生まれたのが「LoCoPiあさひまち」です。
──開発にはどのくらいの時間がかかったのですか。
堀内: 約半年という異例の短期間で仕上げたのですが、それが可能だったのは、みんなで未来!課という組織横断型の部門があったからです。みんなで未来!課は、DXによる地域コミュニティーと自治体サービスの再構築を強化するために2022年4月に新設された部署です。そのような統合的な窓口があったことで、さまざまな領域にまたがるマルチサービスとしての「LoCoPiあさひまち」が実現したわけです。
畠山: これまでの積み重ねがあったこと。それも短期間で新サービスを開発できた大きな要因です。博報堂が関わる以前から住民の課題を解決する町の取り組みがあり、僕たちがジョインしてからはともに各種サービス開発を進めてきました。そういった基盤がなければ、わずか半年で新しい統合的サービスをつくるのは不可能だったと思います。
山崎: 私は、人間的な関係も非常に重要であったと思います。畠山さん、堀内さんをはじめとする博報堂の皆さんの熱量と、町長のエモーション。それが化学反応を起こして、大きなエネルギーになったと実感しています。
畠山: 町長のリーダーシップに加えて、それに応えようとする役場の皆さんの強い思いもありました。民間企業では、リスクをとればそれだけリターンが期待できます。しかし、地方自治体はそうではありません。一般的に、行政の役割は今ある仕組みを着実に円滑に運用していくことであって、新しい仕組み、新しいサービスを生み出すことにチャレンジするのはリスクでしかなく、それに対する経済的見返りは期待できません。つまり、ハイリスクノーリターンということです。にもかかわらず、役場の多くの皆さんが新しい住民サービスを生み出すことに本気になってくださった。そのことの重要性は、いくら強調しても強調し足りないと思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ChatGPT導入 横須賀市が「全国で一番乗り」できた納得の理由
全国の自治体に先駆けて業務にChatGPTを取り入れ「生成AI開国の地」を名乗る横須賀市。新たな技術の導入に慎重で、お堅いイメージが付きまとう行政現場で、いかにして新技術の導入を進めたのか。
野村が捨てた「資産3億円未満」を狙え SMBC×SBIが狙う“新興富裕層”の正体
SMBC×SBIが、「Olive Infinite(オリーブ インフィニット)」というデジタル富裕層向けサービスを開始した。野村證券をはじめとする大手証券会社が切った「1億〜3億円層」に商機があるという。
“勝ち手法”だった「インフルエンサーマーケ」 急激に失速した2つの要因
D2Cの“勝ち手法”だった「インフルエンサーマーケティング」が急激に失速した。「D2C」を取り巻く市場は厳しい中、企業は従来の「インフルエンサーマーケティング」の認識をアップデートする必要がある。


