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安請け合いがアダに? 三菱商事、洋上風力から撤退、「再エネの切り札」に垣間見えた限界古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」

三菱商事が日本の洋上風力発電事業から事実上撤退する。2021年の入札で“競り勝った”案件だったが、近年の建設費や関連費用の高騰で採算が合わなくなり、撤退を余儀なくされたという。

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筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら


 三菱商事が日本の洋上風力発電事業から事実上撤退する。

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三菱商事洋上風力のWebサイトより

 同社は8月27日、秋田県の「能代・三種・男鹿沖」「由利本荘沖」、千葉県「銚子沖」の3海域で進めていた総発電容量1.7ギガワット(GW)規模のプロジェクトを中止すると発表した。

 これらの案件は2021年の入札でいずれも“競り勝った”案件だったが、近年の建設費や関連費用の高騰で採算が合わなくなり、撤退を余儀なくされたという。

 三菱商事の撤退は、再生可能エネルギー拡大の切り札として期待された洋上風力が直面する厳しい現実を浮き彫りにしている。

3つの海域「総取り」からの逆風

 洋上風力プロジェクトにおける初の入札は2021年12月に実施された。この入札では、三菱商事が中心として発足したコンソーシアムが3海域を全て落札し、国内のエネルギー転換をけん引する存在として注目を集めた。

 当時の落札価格は極めて低かったとされており、競合他社に大差をつけて入札を勝ち取ったことで話題を集めた。落札供給価格は由利本荘11.99円、能代など13.26円、銚子16.49円/kWh(キロワット時)と当時の陸上風力の相場であった19円/kWhより大幅に低い水準だった。

 結果論だが、これが安請け合いとなり、収益余地の薄い高リスク案件と化してしまった。

 同社の計画では洋上風力発電にはGE製の大型タービンを採用し、2025年から順次建設を始め、最短で2028年から2030年にかけての稼働開始を見込んでいた。しかし世界的な資材高騰、円安、金利上昇が重なり、想定を超えるコスト増が直撃したという。

 そこで2025年2月、三菱商事は3案件の事業性を再評価した。このとき、すでに522億円の減損損失を計上していたのだ。その後、政府が費用増を補う新たな支援策や価格調整制度を検討したが、結局は採算性の回復には至らなかったというわけだ。

 すでに基地港湾化に向けた岸壁・ヤード整備も進んでいた能代港では官民での先行投資も進んでおり、投資回収の不確実性が高まっている。自治体の落たんも大きいだろう。

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三菱商事のプレスリリースより

再エネ拡大への試金石

 政府は2030年に再生可能エネルギー比率を36〜38%に高める目標を掲げている。その柱の一つに据えられているのが洋上風力発電であり、2040年までに最大45GWを導入する計画だった。しかし三菱商事の撤退は、民間企業が再エネ事業へ投資することを踏みとどまらせうる象徴的な出来事となりそうだ。

 今後、三菱商事の代わりの事業者が再公募される見通しだが、同じ条件では応札者が現れない可能性が高いだろう。入札は「低価格」を競わせる設計となっており、結果としてリスクを抱える事業者が入札に二の足を踏む可能性が生じる。

 今後は、落札後に発生したコスト上昇を落札事業者が一方的に背負い込む仕組みを是正し、価格変動や建設遅延を織り込んだ柔軟な入札制度へと改める必要性もでてくるのではないだろうか。

 欧州では、燃料価格やインフレ率に応じて電力単価を調整する仕組みや、リスクを官民で分担する制度が整備されつつある。日本も単なる安値競争から脱し、持続可能な市場環境を整えることが求められる。

 企業としても、いわば“案件ありき”の姿勢で採算性を度外視した入札を控えるべきだ。政府側だけでなく、企業側も疲弊することのない「現実的な見積り」を描けるかどうかもまた重要なのである。

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