なぜ「エスコン」は幅広い客の心をつかむのか 野球初心者・20代女性が考えてみた:シリーズ「編集部の偏愛」
20代女性記者がドハマりしている、日本ハムファイターズの魅力について考えてみた。
シリーズ「編集部の偏愛」:
ITmedia ビジネスオンライン編集部のメンバーが、「いま気になるもの・人・現象」をきっかけに、社会や経済の変化を掘り下げる企画である。個人の“偏愛”を軸にすることで、記事には書き手の視点や関心が自然ににじむ。日常の小さな関心が、経済の動きや兆しとどうつながるのかを、取材を通して丁寧に伝えていく。
突然個人的な話をしてしまい申し訳ないが、筆者は典型的な“趣味がないタイプ”だ。ドラマや映画も見るし、読書も人並みにする。休日、気が向けばカフェ巡りをしたり散歩をしたりもするが、趣味というほど続けているコトは、1つもない。
そんな筆者が昨年からドハマりしているのが──日本ハムファイターズ(以下、ファイターズ)の試合観戦である。
きっかけは2024年7月、友人に声をかけてもらい、エスコンフィールドHOKKAIDO(以下、エスコン)で開催された「マイナビオールスターゲーム2024」を観戦したこと。その際、初めてエスコンに足を踏み入れ、ファイターズというチームだけでなく、球場そのものにもすっかり魅了されてしまった。
そこから複数回エスコンで試合観戦。厳しいチケット争奪戦を勝ち抜き、クライマックスシリーズの試合を、ダイヤモンドクラブシート(バックネット裏にある特別な座席)で観戦するなど、かなり勢いよく“ファイターズ沼”に落ちていったわけである。
オールスター戦が筆者にとって、プロ野球観戦のデビュー。野球中継を見る家庭でもなかったため、野球自体になじみがなかった。そんな筆者が、なぜここまで野球観戦やファイターズにドハマりしてしまったのか。その背景にある、エスコンという球場特有の傾向と、幅広い客層を獲得しているファイターズの戦略について考えてみた。
考え抜かれたトイレ、たくさんのモニター 初心者目線で感じたメリット
まず、筆者の情報を整理する。20代後半の女性で、昨年まで札幌に住んでいたので、比較的エスコンに通いやすい環境だった。
ファイターズに魅了された理由の1つ目は、エスコンが初心者に優しい環境であることを挙げたい。
球場は開放感があり、どの入り口から入ってもおおよそ球場の様子が分かる。また、飲食店なども広く分布しているため、飲み物や食べ物に困ることも少なかった。個人的には、完全キャッシュレスでレジの回転が速いことも、利用のハードルを下げた。
トイレもきれいで数が多く安心だ。場所によっては、入り口から出口までが一方通行になっており、トイレ内で人がすれ違うことによるストレスを感じづらい設計になっている。
TOTOによると、球団と設計側の有志で「トイレ分科会」を結成し、時間をかけてプランニングしたという。
他球団と比べ女性ファンの比率が高いため、男女比は4対6で設計した。「できるだけ回転率を上げること」「全体を一望しやすいこと」にこだわり、男女ともに洗面コーナーには鏡を設けず、効率的な空間を目指しているという。
何より初心者としてうれしかったのが、モニターが多いことだ。初心者なので「今のプレーどうなってたの?」「今のバッターはどの選手?」「球を見失った!」など、目視では確認しきれない情報がたくさんある。その際に、モニターに表示されている選手情報やリプレイ映像が大変ありがたい存在となるのだが、エスコンはどの席からもモニターが比較的見やすいように感じる。
また、飲食店エリア「七つ星横丁」や通路などにも、数多くのモニターが設置してある。「ビールを買いに行っている間にホームランを打っただと……」と悔しい思いをすることが減る。
このような工夫で、来場者のマイナスな体験を極力減らしていることが、初心者の満足度向上につながり、二度目の来場を促すポイントになっているのではないか。
女性、子ども連れ 幅広い客層を獲得する理由を考えてみた
2つ目に、広い客層がある。エスコンの来場者を見ると、女性だけでの観戦や子ども連れ、ご高齢の夫婦など、客層がかなり広い。祖父母、両親、孫──3世代そろって観戦する姿や、ペット連れの来場者も多く見かけた。
広い客層を実現している1つの要素に、推し活要素の取り入れがあるように感じる。
各選手のグッズが豊富なのはもちろんだが、さまざまなイベントを開催することでファンの推し活熱を盛り上げている。
例えば、7月には「ファイターズかわいいシリーズ」と銘打ち、サンリオのマイメロディ、クロミとコラボしたフォトスポットの設置やグッズ販売をした。ファンによるフォトコンテストなど、参加型のイベントも充実させている。
また、イベント期間中は「かわいい」にちなんで、タレントの森香澄さんや鈴木愛理さんなどのゲストが登場。ファイターズガールと「きつねダンス」を踊るなど会場を盛り上げた。
この「きつねダンス」もファイターズに親しみを持つきっかけになるようで、会場ではグッズのカチューシャなどを身に着けて踊る子どもたちや学生の姿を多く見かける。
始球式に参加したゲストがきつねダンスを踊るケースも多い。同球団のYouTubeにはアイドルグループFRUITS ZIPPERやCANDY TUNEがきつねダンスを踊る様子がアップされている。
選手のメディア露出も多く、2025年3月26日発売の『anan』スペシャルエディション版で選手らが登場し、話題を集めた。野球シーンにとどまらない選手の活躍も、ファンを引き付ける要素になっているのかもしれない。
疲れていて「映画」が観れない そんな時、スポーツ観戦がストレス解消になるかも?
加えて、これはファイターズに限った話ではないが、社会人にとってスポーツ観戦が魅力的だと感じる理由がある。
社会人の多くは、日々の仕事、そしてスマホやPCの画面を長時間眺めることに疲労感があるのではないだろうか。筆者は社会人になってからこの疲労感を覚えることが増え、そしてドラマや映画をはじめとしたコンテンツを見る「体力」がほぼ無い状態が続いている。
大正製薬の公式Webサイト(※)によると、20〜60代の調査対象者500人のうち36.6%が「PCやスマホの使い過ぎによる疲れを感じる」と回答。また、デジタル疲れを感じている人は、疲労度合いも高いことが分かった。
※大正製薬の公式Webサイトを参照
うっすらと疲労感が残っており、ドラマや映画を観る元気はない。でも、終業後や休日はパーっと楽しみ、リフレッシュしたい。そのような状態の社会人に、スポーツ観戦はおすすめできる点が多い。
(もちろん人によって異なるが、筆者の場合は)応援しているチームがヒットを打てばうれしいし、チャンステーマ(応援歌)を歌いながら「点は獲れるか」とワクワクする。相手チームに点が入ったり、エラーなどミスがあったりすれば落ち込む。
勝てばうれしいし負けたら悔しい。登場人物の心情を想像したり、話の展開を予測したりしなくてよい。このように感情の動きが単純であることが、気軽さにつながっているように感じる。
早稲田大学の佐藤晋太郎准教授らの研究によると、「スタジアムやアリーナでの観戦ならびにテレビ・インターネットでの観戦は、どちらも生活充実感と有意な正の関連がある」としている。さらに、スポーツ観戦は頻度が多い方が幸福感を得やすいというエビデンスも出ているとし、スポーツ観戦が与えるポジティブな要素を指摘している。
同研究では、ストレス解消の手段としてスポーツ観戦の活用の可能性があるとも言及しており、スポーツ観戦とウェルビーイングの関連性への興味も高まっているようだ。
ここまで、野球観戦初心者の視点で、エスコンやファイターズについて紹介してきたが、多くの来場者を動員している一番の要因は、チームが優勝争いに食い込んでいるからだろう。実際、「2025 パーソル クライマックスシリーズ ファーストステージ」のチケットは完売しており、その注目度の高さがうかがえる。
今シーズンも残りわずか。ファイターズの活躍が観客動員を後押しし、北海道・北広島市ににぎわいとスタジアム周辺の新しい動きを広げていくきっかけとなることを期待したい。
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