スズキが目指す“100キロ軽量化”の衝撃 クルマは軽ければ軽いほどいいのか:高根英幸 「クルマのミライ」(4/5 ページ)
自動車メーカーは、軽量化の技術開発に注力してきた。スズキは「100キロの軽量化」を掲げ、開発を進めている。一方、クルマの性能を高めるため、重量増となる改良を行うケースもある。軽く、強く、安全なクルマを作るための挑戦が続けられていくだろう。
クルマは軽ければ軽いほどいいのか
では、クルマは軽ければ軽いほどいいのか。冒頭で、軽さはクルマの性能のほとんどを向上させると書いたが、実際には軽いことが弊害となるケースもある。
人を乗せているときと乗せていないときの違いによる走りへの影響も、車重が軽いほど大きくなる。車重が1トンのクルマに5人乗車した場合、全体で1.3トンとなり3割増えるが、車重800キロのクルマでは1.1トンとなり、重量増は4割になる。
こうなると乗り心地や加速性能、コーナリング性能にも影響を与えるが、それ以上に問題となるのは制動性能であろう。トータルの車重が重くなれば、制動距離は長くなる。車体の重量が軽いと、乗員や積載量に応じて制動距離が伸びる割合も増えてしまうのだ。
衝突安全性についても、軽量化によって向上すると書いたが、衝突事故の状態によっては軽量化があだとなるケースも出てくる。
運動エネルギーは重量(質量)×加速度によって得られるから、同じ速度で衝突しても、軽い方が衝撃力(運動エネルギーを一気に相殺する力)は小さくなる。だがこれは相手が動いていない状態だから通用するもので、動いている相手(運動エネルギーを持っている物体)との衝突では、別の現象が影響してくるのだ。
エネルギー交換の法則(エネルギー保存の法則)により、お互いの運動エネルギー(衝撃力)が交換されるため、小さな運動エネルギーの車両が不利になってしまうのである。もちろん自動車メーカーも車両対車両の衝突事故を想定して衝突実験などを行い、安全性を高める努力を続けている。
メルセデス・ベンツなど大型高級車を主力とするメーカーは、小型車との衝突事故において相手側の安全性を確保できるように、衝撃吸収性を高めたボディを採用するケースもある。もちろん自車の乗員を保護する能力を高めることにもつながるが、大きく重いクルマを公道で走らせる際のあらゆるリスクを考慮しているのだ。
逆に、小さなクルマで高い安全性を確保していることをコンセプトにしたスマートというブランドも展開するなど、自動車の先駆者としての責任感を感じさせる。
重量の話に戻ると、軽量なクルマは重厚な乗り心地を作り上げるのが難しいというデメリットがある。高級車が大きく重いのは、むやみに重くしているのではなく、落ち着いた走りを演出するための構造を採用しているからだ。
同じ道を走っても、小型軽量なクルマは路面の凹凸で大きく揺れるのに対し、大きく重いクルマは格段に滑らかに走り抜ける。それはホイールベースや車輪の大きさだけでなく、路面からの突き上げに対して受け止める力(慣性力)が大きいこともその理由の一つである。
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