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金高騰は「バブルではない」? 世界の中央銀行が“金争奪戦”を続けるワケ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」

金の価格は、わずか2年間で約2倍に跳ね上がった。これはバブルなのだろうか? 否、単なるバブルとして片付けられるものではない。その理由について解説する。

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筆者プロフィール:古田拓也 株式会社X Capital 1級FP技能士

FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経てX Capital株式会社へ参画。


 国内の金小売価格が歴史的高騰を続けている。大手地金商の田中貴金属工業が発表する金小売価格は、2023年に1グラム1万円の大台を突破したかと思えば、そこから上昇を続け2025年9月に2万円を突破し、史上最高値を更新した。

 わずか2年間で、金の価格は約2倍に跳ね上がったのだ。「円安だからではないか」という見方もあるが、ここ2年間はドル円相場もほとんど動いていない。つまりこれは純粋に金の価値が上昇していることになる。

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出所:TradingView ドル円は11%ほどの円安であったのに対し、金は同期間中に112%上昇した

 店頭には、長年タンスの肥やしにしていた純金アクセサリーを高値で売却しようとする人々もいれば、先行きへの不安から「実物資産」としての金を高値でも買い求める人々が同時に詰めかけ、異様な活況を呈している。

 これはバブルなのだろうか? 否、金の高騰は単なるバブルとして片付けられるものではない。その理由について解説する。

純金高騰はバブルではなく……

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金高騰はバブルではなく、国際金融システムにおける構造変化の兆候だ

 金価格高騰の要因として、メディアでは「有事の金買い」といった地政学リスクや、世界的なインフレに対するヘッジ需要が頻繁に語られる。これらは確かに重要な要素だが、現在の暴騰を説明するには不十分だ。

 より構造的な要因として注目すべきは、新興国を中心とした、各国の中央銀行による未曾有の金購入ラッシュである。

 金鉱山企業の国際的な業界団体World Gold Councilの報告によれば、世界の中央銀行は2022年以降、3年連続で年間1000トンを超える大量の金を購入している。2023年には1037トン、2024年には1045トンの純購入を記録しており、これは2010年から2021年までの年間平均購入量473トンを2倍以上も上回る水準だ。

 特に顕著なのが中国人民銀行であり、2023年には単年で225トンもの金準備を積み増した。また、2024年にはポーランド国立銀行が90トンを購入して最大の買い手となるなど、購入の動きは特定の国にとどまらない。

 注目すべきは、金が連日市場最高値を更新してきた2024年以降も、中央銀行の購入ペースが全く衰えていないという点である。つまり、各国の中央銀行の間にも少なからず「金を高値づかみして大損するリスク」よりも、「金を持たざるリスク」の方がより恐ろしいと考えている者がいるということだ。

 一般に、宝飾品需要などの消費者需要や一部の個人投資家は、価格が高騰すると購入を控える傾向がある。しかし、中央銀行は、史上最高値でも買うことを厭わない。2024年第4四半期には各国中央銀行は購入ペースを333トンへと加速させた。

 バブルの特徴である「群集心理の先鋭化」が今の金相場には欠けているのだ。

2つの「脱ドル化」

 現在の金購入を進める根源的な力は「脱ドル化」であるとみられる。

 第二次世界大戦後、米ドルはブレトンウッズ体制下で世界の基軸通貨として君臨してきた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻に対する経済制裁で、米国が同国の中央銀行資産を凍結したことは、多くの非西側諸国に衝撃を与えた。

 自国の資産が米国側の意向で凍結されかねないという、1つの地政学的リスクが現実のものとなった。多くの新興国は、外貨準備におけるドルへの過度な依存からの脱却と資産の多様化を、国家安全保障上の喫緊の課題と捉え始めている模様だ。

 これに拍車をかけているのがFRBによる根強い利下げ観測である。

 金はドルや債券などと異なり、それ自体が預金利息や配当を生まない。市中金利が低下すれば、預金金利や債券の利回りも下落し、相対的に金の魅力を高める方向に作用する。「金利がつかない」という金のデメリットが薄まることで、投資資金が流入しやすくなることも一因だろう。

企業に求められる対応

 いずれにせよ、各国中央銀行による継続的な金購入は、単なる市況変動ではなく、国際金融システムにおける構造変化の兆候と解釈できる。

 この動きによって、ドル基軸体制の相対的な安定性が揺らぐ可能性や中長期的な為替の不確実性増大も懸念される。特に、日本の輸出企業のように海外売上高比率の高い企業にとって、事業計画の前提となる為替レートの想定や、従来のヘッジ戦略に見直しが必要となる可能性がある。

 今後は、サプライチェーンにおける決済通貨の選択肢や、より複合的な財務リスク管理手法の導入が、事業の安定性を確保する上で重要な検討事項となるだろう。

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