今は鮮魚を追う、元楽天投手・森雄大さんが見つけた新たな「生きがい」(3/4 ページ)
プロ野球を去り、寿司屋に飛び込んだ元楽天ドラ1投手・森雄大。市場で魚を見極め、銀座で顧客をつかみ、再び本店へ。挫折と再挑戦を経て彼がたどり着いたのは、「人を信じ、人を見る力」だった。
けがが人生の価値観を変えた
この3年間、息つく暇もなく働き続けてきた森さんだったが、野球選手時代の経験が生きていることを実感している。特に、けがをしてからの経験が大きかったという。
「けがをする前は、自分一人で頑張ればいいと思っていました。でも、トレーナーやスタッフ、ファンなど、周りの人たちに支えられていることを理解したんです。プロ野球選手は一人で生きているわけじゃない。それを学びました」
その学びが、今の仕事での人への関心につながっている。
「寿司屋では職人が花形です。彼らがいなければ、僕たちはお金をもらえない。でも、だからといって職人だけが偉いわけではない。それぞれが役割を持っています。僕は現場に寄り添い、皆の声を聞く立場でありたいと思っています」
そのためには、コミュニケーションの取り方にも工夫を凝らしているようだ。
「本質を見ることが大事です。どういう人なのかを理解し、意識的に伝え方を変えています。例えば、責任感を持ってもらうために『お願いします』と直接言った方がいい人もいれば、何も言わなくてもやってくれる人には『いつも助かっています』と遠回しに感謝を伝える。現場で一緒にいるからこそ、それぞれのタイプが分かるのです」
このような立ち振る舞いができるのは、投手出身として相手のことを研究する習慣があったからなのだろうか。そのことを問うと、森さんは苦笑いしながら否定する。
「いやいや、もともと僕はけっこうわがままだし、自己中心的なピッチャーでした。相手を見てボールを投げられるタイプではなく、どちらかといえば行き先はボールに聞いてくれという感じでした。でも、先ほど言ったように、けがをして苦しんだり、育成選手として再契約してもらったりした時の体験が大いに生きています」
人を見る目が養われたことで、社内での提案力も説得力を持つようになり、それが会社貢献にもつながっている。
「最初は言われたことをやるだけでしたが、今は少しずつ、自分から発言し、提案するようになりました。マリンゲート塩釜店の今の店長は僕が推薦しました。原価管理や手間をかけて利益を出すことに長けているので、『彼にマリンゲート店を任せたらいい』と社長に伝えました。結果、売り上げも伸びています」
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